■ブナ林美しい大網峠

人や牛が塩を運んでいたころのままのブナの原生林

 残雪や倒木、ゴロゴロした石などがあるものの歩きやすい道のり。それにしても大網峠のブナ林はとても美しい。過去には白神山地や鳥海山、上信越に連なる鍋倉山、十日町の美人林などへ行ったことがある。ブナ林が好きでよく歩きに行くのだが、どこのブナ林にも引けを取らない美しさだ。

 ブナの原生林の中にある「ウトウ」と呼ばれる、当時ここを往来する人々が、少しでも楽に歩けるように山を削った"すり鉢状"の地形の道が、新緑のブナの美しさを際立たせている。その美しさは、この森の長い年月の中では一瞬かもしれないけれど、自然と人が共存していた時代の証なのかもしれない。

 当時の人がたくさんの汗をかいて拓いた道を、ぼくらも汗をカキカキ歩いていくよ。残雪はいつの間にか小さい雫から沢になり、沢沿いの道に変わっていく。飲み水のことも考えてあるのかな?

■古に思いを馳せる

滝の上も歩いていくよ

 この沢沿いに下りていく道は、変化があって楽しい! 昔の荷運びの人、歩荷の人は、夏は畑仕事や酪農をし、塩を運ぶのはむしろ冬の方が多かったらしい。しかも夜にかけて! 理由としては、冬の仕事として塩を運ぶということと、夜の方が雪が締まって歩きやすく、雪崩の危険も避けられるかららしい。事実、過去には戸倉山で大きな雪崩が起きて歩荷茶屋を直撃、多くの人が犠牲になったという歴史もある。「真冬の夜にこの道を? ワラグツで?」塩の道資料館で見た、昔の歩荷の出で立ちは、藁蓑(わらみの)、藁沓(わらぐつ)、三度笠姿だった。それで30kg以上の塩を担いだのだ。

 静けさの中、人や牛がのどを潤す水飲み場、屋敷跡など旧跡をたずねながらただ歩いていく。歩荷の人たちもこの景色を楽しんでいたと思いたい。「ここは綺麗だな~」と、思うところには、屋敷跡や茶屋跡が残っているからだ。ボクらの装備は技術進化で軽量で快適そのものだが、この景色を楽しむ心はこの時代を歩いた人たちと同じだといいな、と思えた。

一期一会の景色。秋にもまた来たい

 言葉でも写真でも、なかなか伝えるのは難しい景色を堪能しながら、標高をどんどん下げていく。植生もブナ林からスギ林に変わり始め、藤の花が咲き乱れて甘い香りがしてきた。今日ここに来れてよかった。子供たちも「凄い探検だ! 冒険だ!」と喜んでいる。歩荷衆は大網宿の塩蔵に塩を届けに歩いていった。じゃあボクらは何を届けに行くんだろうね? 交通網の発達でその役目を終えた道だけれど、時の流れを感じさせるこの道はこれからもずっと残っていってほしいな。

ジグザグのトレイルをひたすら下っていく

 クネクネのスイッチバックのトレイルを一気に下りてきた。ときおり聞こえる川の音が、だんだんと谷底に近づいていることを感じさせる。茶屋跡や素朴なお地蔵さんの脇を通り抜け、巨石を巨木が抱き込んでいるところで横川の吊り橋へ。素敵な吊り橋! でも下の川は……。 

素敵な吊り橋! でも下を流れる川は……

 豪雪地帯だけに雪解けの川は濁流と化している。揺れる吊り橋を渡っていく。標高も下がって暑さも戻ってきた。大網宿までもう少し。最後の坂を登った。