今年の静かな連休が明けた頃、一般的なアウトドア本とは一線を画す、一風変わったテーマを掲げた1冊の書籍がひっそりと発売された。

『“無人地帯”の遊び方 人力移動と野営術』(グラフィック社刊)と題されたその本は、書名の通り、人がいない場所をいかに探し出し、辿り着き、快適に過ごすか、その方法(遊び方)について書かれた特殊な一冊だ。しかし、厳しい環境をなんとかして楽しもうと著者たちが頭を捻った計画の立て方や道具の選び方、スキルの使い方、自然と対峙する方法は、程度は違えど、私たちが身近な登山やキャンプに出かける際に考えるべき事柄との共通点が驚くほど多い。むしろ、登山やキャンプは好きだけれどハードな場所に出かけようとは思わない、そんな方にこそ読んでいただきたい内容である。

 今週から週に1度のペースで、この書籍の一部を誰でも「試し読み」できるよう公開していく。初回は第1章「計画と準備」から、無人地帯とは一体どのような場所なのか、について書かれたパートを紹介しよう。

■“無人地帯”ってどんなところ?

日本の海岸線はとにかく長大だ。探せば全国、どんな地域でも無人の海岸を見つけることはできる

 “無人地帯”とは、いったいどんな場所のことなのか?

 それをシンプルな視点からとらえれば、「人が住んでいない」「立ち入る人がいない」ということになる。アウトドア旅を主眼に置くと、「丸一日以上行動していても、誰にも会うことがない」ということになろうか。

 日本最大の無人地帯は、北海道の知床半島先端部だ。この寒冷な地には知床岬を中心に人工物がほとんどない自然海岸が70km以上も続き、カラフトマス漁の漁師が一時的に暮らす番屋があるのみ。定住者は皆無だ。その代わり、ヒグマが数百頭いるといわれる。

カヤックがあれば、歩いてでは行けない海岸や島にもアプローチできる

 南方の小笠原諸島や南西諸島などの離島にも大きな無人地帯がある。陸は亜熱帯ジャングル、海はサンゴ礁と、いわゆる“本土”とはまったく異なる自然環境だ。自然保護などのために自由にキャンプができる場所は少ないが、大きなポテンシャルを秘めている。

 本州中央部の山岳地帯も意外に広い無人地帯だ。北アルプス最深部には、登山道を使っても往復3~4日かかる場所があり、さらに登山道を外れた渓谷や岩稜帯などの“本当の無人地帯”では他人の顔を一切見ない数日を過ごすこともできる。