■秘境温泉を起点に、藪山と気品溢れるシロヤシオの森を歩く

飛竜橋から眺める夢の吊橋。土砂が流入してしまい、エメラルドグリーンの川面が残念な色になっていた

 藪山とシロヤシオを満喫出来る周回コースの起点となるのは、川根本町からさらに山奥にある寸又峡温泉。

まずは藪山の鋭鋒、黒法師岳を目指し、寸又川渓谷を横目に歩き出す。この辺りは吊り橋が沢山あり、エメラルドグリーンの渓谷歩きを求めて訪れる方も多い。

 登山口から前黒法師岳までは針葉樹林で単調な登りが続く。ヘリポート跡を過ぎ、二ツ山を過ぎると景色は一変。深南部を象徴するような、笹藪の中に雰囲気の良い木が点在する景色が広がる。平坦地は気にならない藪も、黒法師岳の登りに入る頃には背丈と同じくらいになり、鬱陶しくなる。

 この時期に登るなら、マダニ対策として素肌を出さないようにするのと、かなり埃っぽい感じになるのでマスクの着用をおすすめしたい。あと、チェーンスパイクで横滑り対策もしておくと歩きやすい。

左:黒法師岳山頂からは、淡い色の山並みが望める。日帰り登山者はこの下の水窪方面から登る人が多い。右:人を飲み込む笹藪に果敢に挑む。黒法師岳は鋭鋒なだけに、藪が深い
「本邦最南端の2000m地」と書かれた看板が立つバラ谷の頭。凛とした立ち枯れの森が現れる

 一日目の宿泊適地は、水場も近いバラ谷の頭。黒法師岳からは、180cmの筆者が埋もれてしまうほどの笹藪と格闘し、辿り着く宿もまた笹山の空き地である。気づけばたくさんの鹿が近くを見回りに来るのも、人が珍しいからだろうか。そんな一晩も楽しいものだ。

 朝焼けが、またいい。すべてが黒々とした山の連なりに、富士山、黒法師岳がくっきりとしたシルエットになり、深南部の核心部の山々に、次第に射光が入り始める。

 のんびりと眺めながら朝食を食べたら、高塚山を目指して歩き出す。房子山までは、どうやってこうなるのか、遺跡のような立ち枯れの森に圧倒される。次第に枯れ色の中に、柔らかな緑やピンクが現れ始める。芽吹きの表情を凝視した先には、今度は様々な緑が混ざる新緑の森が現れて、高塚山までの稜線歩きだけでも、不思議なくらいに季節の流れを感じられる。これだけでも気分が良い。十分である。

バラ谷の頭で迎える朝。黒法師岳の肩から朝日が昇る

 さて、鋸山を過ぎると、大木のブナやオオイタヤメイゲツの森の中、足元にはバイケイソウの新緑が広がり、天地が新緑に包まれる。しばらく歩いていると、五葉の葉の影に咲くシロヤシオの控えめな白い花を見つられるようになる。大きな木の場合、下から眺めると少し控えめに見える様が、またいい。

 ここから高塚山、蕎麦粒山までは、いろいろな表情のシロヤシオに出会える。妖艶な枝垂れ桜のようなシロヤシオもあれば、グッとマクロ的に観察したくなるシロヤシオもあるので、のんびりと歩こう。

 のんびり派は山犬段避難小屋あたりでもう一泊して、朝夕の沈んだ光の中に浮かぶシロヤシオを見るのもおすすめしたい。山犬段から先、沢口山までは単調なアップダウンを繰り返し、沢口山からは一気に寸又峡温泉へと下っていく。下山後はお待ちかねの、柔らかな単純硫黄泉の寸又峡温泉に癒されたら、川根本町では川根茶ソフトを食べた。お土産は「日本三大茶」である静岡茶のブランド茶『川根茶』を買って家路についた。