雪山は閉ざされた世界。それは気候的な理由だけではなく、冬のあいだ南アルプスの林道は閉鎖されるため、物理的にも閉山といえる。僕は7年間、南アルプス北部の鳳凰三山にある鳳凰小屋で、一年の大半を過ごす小屋番生活をしていた。雪掻きに上がるGW頃に林道が開通し、11月に小屋の最後営業日を迎える頃にはゲートは閉められていたように思う。小屋番の頃も、たまに閉ざされた林道を歩いた記憶がある。

 

■憧れの雪の白峰三山縦走へ

間ノ岳山頂からの眺め。農鳥岳の先に塩見岳と荒川三山が並ぶ

 小屋を辞めてから、いつも眺めていた白峰三山やさらに奥深くまで延びる山塊の閉ざされた世界に無性に憧れるようになった。

 以降、毎年のように独り真っ暗なトンネルをいくつも歩き、時にはスケートリンクのような暗闇にドキドキしながら山を目指した。特に白峰三山への想いは強かった。どこかで見た白旗史朗氏の撮影したボーコン沢ノ頭の雪景色の写真に惹きつけられたのだ。そこには、蠢くような北岳バットレスの雪肌と対峙するツェルトが写っていた。

中白根山でセルフィー。間ノ岳を目指す大きなザックが今では懐かしい

 それから何度も厳冬期に挑んだものの、温暖化なのか、思い描いた積雪量に出会えないし、風雪に容赦なく晒されるボーコン沢ノ頭で一晩を明かすだけで挫けて下山するパターンが何度か続いた。少し季節を変えて向かってみたのが、山が冬と春の狭間の時期を迎える3月中旬だ。天候も読み易く、せめて稜線歩きの時間だけでもと、最初は晴れ間の行動を最優先にした記憶がある。