現在、“焚き火マイスター”という肩書で仕事をしているのは、日本全国どこを探しても私だけだろう。事実、私はこの仕事でメシを食っている。正直、自分でもビックリしているし、数年前はこんなことになろうとは思いもしなかった。

冗談半分で生まれた肩書

雑誌「fam」のイベントでは50人以上の前で講義をした

 そもそも、この肩書が生まれた経緯が変わっている。

 元々、私はアウトドアやファッション誌のライターをしていた(現在も)。登山専門誌でも執筆させてもらっていたのだが、通年、山登りの記事ばかりを書かせてもらっているわけではなく、他にもキャンプなどアウトドア全般の仕事依頼をいただいていた。

 私の実家は、首都圏ではあるが片田舎の広々とした土地があるため、よくキャンプや道具の撮影場所として使ってもらっていた。撮影時、いつも私はなぜか火起こし担当で、誌面用にちょっとした火の起こし方などをレクチャーすることもあった。

 あるとき「猪野くん、いつも火起こしばっかりしてるから、何か火にまつわる肩書を付けようよ」と何気なく言われ、何気なく決まったのが「焚き火マイスター」である。「自分で名付けたの?」と聞かれることもあるが、とんでもない。いまだに恥ずかしくて、「焚き火マイスターの猪野です」とは余程のことがない限り名乗ることはない…。

■誌面の片隅から『マツコの知らない世界』に出演

焚き火が目的のデイキャンプも増えている

 はじめはプロフィール欄に肩書がちょこっと記載されたり、たまに焚き火のワークショップをするぐらいだったのだが、ある番組をきっかけに状況が大きく変わった。それがTBS『マツコの知らない世界』出演だ。一視聴者だった私が、まさかまさか番組に呼ばれるとは夢にも思っていなかった。

 番組をご覧になった方もいるかもしれないが、他の出演者のモノやコトへの情熱や愛情は深く、関心してしまうほどだ。しかし私は性格上、大きな声を張ることができず、終始苦虫を噛み潰したような顔で収録が進んだのを思い出す。

 しかし、番組の反響は想像を超えて大きかった。そして、一気に焚き火ブームがやってきたのだ。