『サバイバル登山家』(みすず書房刊)など多数の著書で知られる作家、服部文祥さん。彼は装備を切りつめて食糧を現地調達する「サバイバル登山」を提唱し、実践する登山家でもある。

 その姿を追ったドキュメンタリー動画作品の撮影と編集を手がけるカメラマン、亀田正人さんに撮影時の裏話やこぼれ話、服部さんの素顔を教えてもらおう。

■本人だけでなく、撮影チーム全員もサバイバル

 記念すべき1作目の動画作品は、『服部文祥の楽園山旅』と名付けられた。楽園を求め、最低限の道具と食料を背に12日間に渡って南アルプスを旅した記録だ。

 夏の旅には、時計や電気、携帯電話などは持っていかない。撮影チームもそれに倣い、サバイバルスタイルを楽しむ。時間は撮影用のカメラで見ようと思えば見られるが、見ないようにしている。

 トイレットペーパーも持たず、尻は水で洗う。もちろんヘッドライトもなく、暗くなったら何もできなくなってしまうので、空の様子を見て早めに野営準備をしなくてはいけない。時計もないので、夜起きても寝てすぐなのか朝方なのかわからない。お昼もおやつの時間もわからない。山中とはいえ、稜線に出れば携帯電話の電波が通じるところもある。長期の旅は天気予報を見ることで予定が立てやすくなるものだが、これもできない。電話もSNSも使えないため、外の世界とは繋がれない。

■不便や無駄なことが人生を豊かにする

 私が服部さんと山に一緒に行き出したのは5年ほど前のこと。初めてこのスタイルで山に同行した時は、不安な気持ちもあった。正直、わざわざ不便なことやって他の人と差をつけたいのかな、と考えたこともあった。

 しかし、実際にやってみるとこれが気持ちいい。時間がわからないという、今まで味わったことがない感覚が面白い。電気がなければ、陽の光を意識せざるを得ない。天気予報が見れなければ、自然の中にある情報から予想するしかない。トイレットペーパーのない生活だけは、結構長い間、受け入れられなかったが「ケツ洗いながら手洗ってんだよ。」と言われて衝撃を受け、それ以来水で洗うようになった。ぬるま湯を使うと最高に気持ちがいいことを知った。不便や無駄なことは人生を豊かにするんだと気づかされた。