■日本で初めてライチョウの人工飼育に取り組んだ「大町山岳博物館」

 山の中でライチョウに会えるに越したことはないが、相手は野生の生きもの。人の思惑通りにはならない現実もある。そのため、登山者の中には「会いたいのに一度も出てきてくれない……」という人もいるだろう。そんな人にぜひおすすめしたいのが、北アルプスの玄関口、長野県大町市の「大町山岳博物館」だ。

大町山岳博物館の外観《写真提供=市立大町山岳博物館》
山岳博物館の付属園《写真提供=市立大町山岳博物館》

 博物館の付属園では、北アルプスやその周辺で見られる動植物の研究や保護のために飼育・栽培を行っており、一般向けに公開展示もしている。

 ライチョウの飼育が開始されたのは今から半世紀以上前の1963(昭和38)年。日本初の先駆的な取り組みだった。しかし、2004(平成16)年に飼育下の最後のオスが死亡し、国内唯一だったライチョウの人工飼育はいったん中断してしまう。その後、2014(平成26)年にスタートした環境省の「ライチョウ保護増殖事業実施計画」を受けて、2016(平成28)年からニホンライチョウの飼育を再開。現在も展示および研究のため、5羽飼育している。

 大町山岳博物館は、北アルプスの山並みが一望できる鷹狩山の中腹、標高約800mに位置している。麓の市街地よりも標高は高いが、ライチョウが生息する高山帯と比べれば1,500m以上低い。当然、夏の気温は高くなるため、そのままの環境ではライチョウの飼育はできない。

栗林「展示室は冷房設備を備えて、夏の間は室温が20℃以下になるようにしています。また、換羽は日照時間の変化によって起こるため、ライトコントローラーを設置して、季節ごとの日照時間に合わせて室内の照明も調整しているんです」

 衛生環境にも細心の注意を払っているという。

栗林「過去に飼育していたライチョウが感染症で亡くなってしまうことがありました。そのため、消毒をこまめにするなど、衛生管理も徹底して行っています」

飼育室のライチョウの親子。ヒナは3日齢《写真提供=市立大町山岳博物館》
夏羽のライチョウのつがい。左がオス、右がメス《写真提供=市立大町山岳博物館》
野生復帰させた若鳥。飼育されているライチョウは小松菜が好物《写真提供=市立大町山岳博物館》

 ニホンライチョウの飼育および公開展示は現在、大町山岳博物館のほか、上野動物園(東京)、富山市ファミリーパーク(富山)、那須どうぶつ王国(栃木)などで行われている。

 2019(平成31)年から中央アルプスで始まった「ライチョウ復活作戦」は着実に成果を上げ、スタート前は1羽だった個体数は推定328羽(2026年の調査の速報値)まで増加した。だが、ライチョウが今も「絶滅危惧種」であることには変わりなく、保護や増殖のための活動は今後も続いていく。

栗林「今注目されているのが、ライチョウの人工授精です。すでに上野動物園や富山市ファミリーパークなどで成功していますが、大町山岳博物館でも挑戦を始めているんです」

 日本の高山帯を象徴する「神の鳥」との出会いをこれからも楽しめるよう、登山者もライチョウの保護保全活動を見守り、応援していきたいものだ。