■思い通りにいかない展開の中、春の那珂川でアイソを追う
今回、筆者が訪れたのは4月中旬。場所は「栃木県那珂川南部漁協」の管轄エリア内で、午前10時からのおよそ4時間だ。当日は快晴で、前日の雨の影響により水位はやや高め。気温は24℃近くまで上がり、少し体を動かすと汗ばむほどの陽気だった。
使用したタックルは、6.1mの渓流竿にミャク釣り仕掛けをセットしたシンプルなもの。エサには当日に河原で採取したクロカワムシ(トビケラの幼虫)を用いた。ポイントは水深30~60cmほどの瀬と淵が絡むエリア。ウェーダー(釣り用の防水長靴)をはき、川の中を歩きながら魚の気配を探っていく。
ところが、釣りを開始してしばらくしても反応がない。幼い頃から慣れ親しんできたウグイだけに「すぐに釣れるだろう」と考えていたのだが、その予想はあっさりと裏切られた。川幅が50mを超える大河川というフィールドに加え、慣れないミャク釣りに戸惑い、思うように魚の気配を捉えきれないでいた。
それでもポイントを変えながら探り続けること1時間あまり。ようやく待望のアタリが訪れた。慎重に取り込んだ一匹は全長24cmほど。体側には鮮やかなオレンジ色の縞模様が浮かび上がり、ヒレにも同様の発色が見られる。まさに春のアイソらしい、美しい一尾だった。
その後も連発とはいかず、ポイントを移動しながら単発的に拾う展開が続いた。最終的な釣果は21~30cmのアイソが4匹。決して数は多くないが、一匹にたどり着くまでの時間も含めて印象に残る釣行となった。思い通りにいかないからこそ、もう一度試してみたくなる。そんな釣りの奥深さを感じる一日だった。
筆者が使用したタックルと道具は以下のとおりである。
【使用タックル】
ミャク釣り仕掛け
竿:渓流竿 長さ6.1m
道糸:ナイロンライン 1号
目印:毛糸タイプ、視認性の良いものを4連で使用
オモリ:ガン玉(重さは川の流れの強さに合わせて適宜)
ハリス:ナイロンライン 0.8号 長さ40cm
ハリ:袖バリ 5号
エサ:クロカワムシ(当日、河原で採取)
【あると便利な道具】
エサ入れ:エサの乾燥を防ぐ
川虫取り網:川虫を取るための小型の網
タモ網:魚を掬うための小型の網
針外し:魚がハリを飲みこんでしまった際に使用
引き舟:釣った魚を生きたまま一時的に入れておく舟型の生け簀
クーラーボックス:持ち帰る分の魚を入れるための容器
保冷剤:クーラーボックス内を冷やすためのもの
観察水槽:釣った魚を横から観察できる
トレー:魚の写真撮影をする際に水を張って使用
タオル:濡れた手を拭くために使用
■那珂川の春の味覚「アイソ」を食す。素朴で滋味あふれる一尾
栃木県は内陸部に位置し、かつては新鮮な海産物の入手が難しい地域であった。そのため、那珂川流域では川魚が貴重なタンパク源として親しまれてきた歴史がある。ウグイもそのひとつであり、産卵期を迎える春の個体は「アイソ」と呼ばれ、季節の味覚として今も親しまれている。
この時期になると、那珂川周辺の川魚店や農産物直売所には「焼きアイソ」が並ぶ。香ばしく焼き上げた一尾に山椒味噌(さんしょうみそ)を添えて味わうのが、この地域の春の楽しみ方だ。
今回、筆者は釣りを終えたあとに立ち寄った川魚店で焼きアイソを購入した。20cmを超える良型で、価格は3本で1,000円ほど。自宅のコンロで温め直し、山椒味噌を添えていただく。
一口食べると、川魚にありがちな臭みはまったく感じられず、淡泊な中にしっかりとした旨味がある。甘じょっぱい山椒味噌との相性もよく、素朴ながら滋味深い味わいだ。卵を抱えた個体は、「焼きたらこ」のような粒々の食感がアクセントとなり、また違った美味しさが楽しめる。
骨の多さはあるものの、それも含めて川魚らしい魅力といえるだろう。清流で育ったアイソは、見た目の美しさだけでなく、食材としての魅力も十分に感じさせてくれる存在だった。
春の那珂川では、婚姻色に身を染めたアイソが川の中に確かな季節の移ろいを映し出していた。釣りとしての面白さはもちろんのこと、食文化として受け継がれてきたこの魚は、まさに地域に根ざした春の風物詩といえるだろう。
穏やかな流れに身を置きながら、水中の気配に意識を研ぎ澄ませるひととき。そして釣りの後に味わう一尾の滋味。そんな時間を求めて、この春は那珂川へ足を運んでみてはいかがだろうか。
【注意】ウグイをはじめとする天然の淡水魚は、寄生虫の宿主となっている場合がある。これらの魚を生のまま摂取すると、寄生虫によって重い症状を引き起こすおそれがあるので、刺身などの生食でこれらの魚を食べるのは禁物。
管轄漁協:栃木県那珂川南部漁業協同組合 https://nakagawa-nanbu.com/