■石炭と太陽光を組み合わせた画期的な浴場システム
現代にあっても違和感がないような一大娯楽施設であったカラカラ浴場は、施設内を床下暖房と太陽光で温めるシステムが整っていた。建築上最も特徴的なのが「ハイポコースト」という床下暖房のシステムで、建物の下に小さな柱で支えられた空間を作り、その空間に石炭を燃やした熱風と煙を流し込むことによって床全体を暖める、というもの。人々が歩く床にはタイルや煉瓦を敷いて熱伝導率を上げていた。浴場全体に敷き詰められた美しいタイルは装飾としてだけでなく、このようなシステムを機能させるための重要な要素でもあった。この「ハイポコースト」という床下暖房システムは19世紀まで利用されていたというからその完成度の高さがうかがえる。
さらに、熱浴室は南側の太陽光が最も入る場所に造られ、空からの太陽熱と床下暖房、さら側面の壁には壁面暖房も施され、室内の温度を上げると同時に温めた空気が冷えないように工夫されていた。一方、温浴室は床下暖房や温水の浴槽を備え、熱浴室の高温に入る前に体を温めて慣らす役割を果たしていた。一般的には、温浴→熱浴→温浴→冷浴→プール、という入浴のプロセスがあったが、施設内の行き来は自由で、プールや温浴だけを利用したり、サウナだけを利用したりすることもできたそうだ。
解説を読みながらこんな高度な仕組みを理解しつつ歩くと、ただのモーニング・ウォークが特別な体験に変化していくように感じる。古代ローマ人の贅沢な日常のルーティーンを垣間見つつ、とても充実した平日の朝の時間を過ごすことができた。
文・写真/田島麻美