ローマから北へ約100km、ヴィテルボからバスで30分弱のところに位置するボマルツォの『怪物庭園』は、ルネッサンス後期の傑作にして今なお多くの謎を残す幻想的な庭園である。「サクロ・ボスコ(聖なる森)」と呼ばれる森の中に、1552年、当時のボマルツォの領主だった貴族ピエール・フランチェスコ(別名ヴィチーノ)・オルシーニによって造られた。約3ヘクタールの敷地内には、多様な針葉樹・広葉樹やシダ、苔類など手付かずの自然の中に奇怪な石の彫刻や巨大なモンスター像などが点在する不思議な空間が広がっている。非日常空間と森林散策の両方が楽しめるユニークな庭園だ。

■観る者を欺くため?  それとも純粋な芸術?

 入場料(13ユーロ)を払って園内マップを受け取り、早速ビジターセンターから園内に入る。緑の並木に囲まれた遊歩道に沿って、小鳥の囀りを聞きながら歩いていくと、突き当たりに苔むした石造りの門が見えてくる。ゴシック・ホラーの映画に出てきそうな雰囲気たっぷりの門をくぐり、いよいよ異世界空間へと足を踏み入れる。

怪物庭園入り口の門。この先には異世界空間が広がっている

 真っ先に出迎えてくれたのは2体のスフィンクス。 左のスフィンクスの台座には、『眉をひそめ、唇を結んで(つまり、心を閉ざして)この場所を訪れる者は、たとえ世界の七不思議を見ても、驚嘆することはないだろう』。右のスフィンクスの下には『ここに入る者よ、一つひとつを注意深く観察せよ。そして後で教えてくれ、これほどの驚異は企みなのか、それとも芸術の成せる技か』。園内に潜む怪物たちの彫像はなんのために作られたのか、自分自身の目と感性で確かめよ、という2体のスフィンクスの謎かけを読みながら、自然と心がドキドキしてくる。この先はしっかり目を開いて行かなくては。

昼間でも薄暗い幻想的な空気に満ちた庭園。歩道は整備されていて歩きやすい
門を入ってすぐの場所にあるスフィンクス像は庭園の象徴的モチーフのひとつ

  園内の彫刻がある場所はすべてきちんと整備された歩道でつながっているので、マップに頼らずともルートに従って歩いて行けば怪物たちを難なく見つけることができる。最初に出会った怪物はギリシャ神話のプロテウス。大口を開けた怪物は頭上に地球儀と貴族の城をどんと載せていて、なんだかお茶目。この彫像を皮切りに、庭園散策ルートには次々と奇怪でグロテスクな巨像が現れてきた。

高い木の陰から突然現れるエルコレとカーコの巨人像は庭園最大の彫像の一つ
チニャーノ川の谷に面した丘の斜面に作られた庭園は、自然の地形をそのまま活かして設計されている。起伏のあるルートを歩くと森を探検しているような気分が味わえる