■キズ湯に入浴できる「おりはし旅館」

妙見温泉発祥の湯といわれている山里の宿「おりはし旅館」。「日本秘湯を守る会」にも入会している

 霧島温泉郷はいくつもの温泉地で構成されているが、今回はこのうちの妙見温泉に滞在した。市街地から向かうと、天降川(あもりがわ)沿いに国道223号線をさかのぼり、民家がまばらな静かな道を抜けていくと、支流の中津川が合流するあたりで、突如温泉街が現れる。このエリアだけ渓谷沿いにホテルや旅館がいくつも並び、山深くにひっそりとたたずむ隠れ湯といった趣きだ。

 天降川と中津川の合流点となるこのあたりは折橋と呼ばれ、滞在先の山里の宿「おりはし旅館」はまさにそのポイントに位置している。明治12年創業と146年の歴史をもち、宝暦2年(1752年)、ここに住んでいた折橋左門という人物が川岸の泉源を発見し、湯壺を作ったことがはじまりだという。

天降川沿いに温泉宿が立ち並ぶ妙見温泉
右の薄茶色の湯が鉄分などの泉質を含む「キズ湯」。左の「竹の湯」のほうが湯温が熱くやや濁りがある

 明治初期、国内最後かつ最大の内戦である西南戦争が起こった際、刀傷を負った薩摩軍の兵士たちがこの地の温泉で体を癒したという。すると「傷の治りがいい」とその効能が伝え広まり、明治12年に南九州の氏族・島津家の漢方医がこの地に湯治宿を作り、療養の湯「キズ湯」として「折橋」の温泉が知れ渡り、湯治客が訪れるようになったのだとか。

 薩摩軍兵士を癒した湯は「キズ湯」と呼ばれ、別館の「山水荘」に入浴施設が用意されている。妙見温泉のなかでも、キズ湯が自噴しているのはこの旅館だけ。湯温は33℃とぬるめだが、浴場には湯温の高い「竹の湯」というもうひとつの源泉があるので、交互に浸かって心身を癒せる。なお、キズ湯と竹の湯は立ち寄り湯としても利用できる。

キズ湯と竹の湯は立ち寄り湯も可能

■旅館は全室すべてに内風呂&露天風呂完備

和洋室タイプの離れの「樟庵」。1~6名まで宿泊でき、ほぼ一軒家のような大きさだ

 「おりはし旅館」は山に囲まれた1万坪の敷地に個性豊かな12の客室が点在。それぞれ離れのような独立した建物になっており、玄関があり、茶の間や寝室がありと、平屋の一軒家で過ごしている感覚になる。部屋によって川沿いだったり、竹林に囲まれていたりと景観が異なり、全客室に源泉かけ流しの内風呂と露天風呂の温泉と冷泉の水風呂が付いている贅沢な造りだ。

広いベットでぐっすり眠れる洋室タイプの寝室
床の間がある10帖の和室は歓談の場として利用。これとは別に6帖の和室もある
内風呂からすぐ露天風呂へと行ける

 例えば、大きな楠と竹林に包まれた「樟庵(しょうあん)」という離れは、6名まで宿泊可能で、10帖と6帖の2つの和室のほかに、洋間の寝室を完備。お風呂と露天風呂に加え、寝湯と水風呂まで堪能できる豪華な客室だ。

 客室に付いている温泉のほかに、敷地内にある大露天風呂「えのきの湯」と、前述のキズ湯、竹の湯の内風呂を利用できるので、施設にいながら湯めぐりが楽しめる。

懐石料理ひとつひとつが贅を尽くした料理になっていた。写真は3品の料理がのった先付
お造りは天然の鯛と、まぐろ、車えび。海を思わせる器もおいしさを引き立ててくれる
焼き物は天降川の名物である天然もののあゆを若狭焼きで
メインの替り鉢は鹿児島黒牛のステーキにヤングコーンやキャラロット、スナップエンドウなど添えられいた
こちらは朝食。2段になった長手弁当箱にさまざまな料理の小鉢が詰まっている

 食事会場となる本館はもともと宿として利用されていた施設。大正時代に建築されたという建物は、風情があって不思議と心を落ち着けてくれる。また、個室で過ごせるのでゆっくり食事ができるのもいい。

 夕食の懐石料理は月替わりでメニューが変わるそうで、訪れた日の内容は、天然の鯛、天降川のあゆ、鹿児島黒牛、白姫海老など鹿児島県の食材がふんだんに使われていた。先付にはじまり、椀、お造り、煮物、焼き物、替り鉢とタイミングよく料理が運ばれてくる。そして、ごはんは霧島棚田米と地元の味覚をフルで味わえて大満足だ。

秘湯を満喫できる「おりはし旅館」

 国立公園に指定されている「霧島」は、霧島連山と錦江湾がもたらす自然の景観、山と海の幸、そして湯量豊富な温泉など旅が楽しくなる魅力がギュッと詰まっている。とくに温泉は、4つの温泉郷に9つの泉質があり、全国トップレベルの泉質数だ。泉質をチェックしながら滞在先を選び、そこを拠点に霧島市内の観光にくりだそう。

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