■美しい原生林と稜線の先の大絶景山頂を目指して

甲武信ヶ岳中腹の稜線から富士山を望む。まるで水墨画のように美しい

●明け方の毛木平駐車場より千曲川源流地点へ

 コースはなだらかだが、距離はそれなりにあるので、早い時間の出発を心がけよう。また、人気登山口のため、駐車スペースも早々に埋まりがちだ。可能ならば前夜のうちに駐車し、車中泊も視野に入れよう。

 空が白んできた頃を見計らって出発だ。毛木平登山口からしばらくは、静かな樹林帯が続く。足元には柔らかい落ち葉や苔が広がり、新緑に包まれる美しい道だ。豊かな自然を感じながら進むうちに、徐々に沢の音が近づいてくる。ここから先は千曲川の源流域に入っていく。

 沢沿いの登山道には、小さな木橋や渡渉ポイントが数か所現れる。いずれも幅は狭く、急流というわけでもないので、慎重に歩けば危険は少ない。登山のアクセントとして楽しめる。登山者の足元を静かに流れる沢の姿は、後に大河・千曲川となって日本海へ注ぐ水の始まりであることを思うと、自然のスケールに心が打たれる。

 出発から3時間強で「千曲川源流点」の標柱が現れる。ここは記念撮影スポットとしても人気があり、多くの登山者が足を止める。人々の暮らしを支え、日本で最も長い河川の最初の一滴。自然の神秘を間近に感じられる貴重な場所だ。源流を汲んでいただくこともできる。

岩を這うように(なめるように)流れることから名付けられた「ナメ滝」
日本最長の河川「千曲川」の最初の一滴に出会える貴重な場所だ

●千曲川源流からいよいよ甲武信ヶ岳山頂へ

 千曲川源流点を過ぎると、いよいよ本格的な登りが始まる。ここからは空が徐々に開けてくる。斜度は急すぎず、整備されたジグザグの登山道が続くため、無理のないペースで進もう。登山道脇には高山植物が彩りを添えてくれる。

 樹林帯を抜け、稜線に出ると、一気に視界が広がり、思わず声が出てしまうほどだ。右手には国師ヶ岳(こくしがたけ)から金峰山(きんぷさん・きんぽうさん)方面、左手には十文字峠を越えて八ヶ岳の稜線が連なる。風が吹き抜け、遠くから鳥の声だけが響く。

 そしてとうとうたどり着いた山頂で待っているのは、言葉を失うほどの360度パノラマ絶景。南には富士山が雲海に浮かび、北には八ヶ岳と南北アルプスの山々、東には秩父(ちちぶ)山地、西には浅間山も望める。天候に恵まれれば、日本百名山のうち40座以上が見えるとも言われる絶景が広がっている。まさしく、甲州・武州・信州の大自然が融合する十字路だ。

筆者憧れの山頂標柱。青空の下には四方を見渡せる絶景が広がっている

●おわりに

 甲武信ヶ岳は、その地理的な存在感と登山の充実感を兼ね備えた名峰だ。

 なかでも長野県・毛木平からのルートは、多彩な見どころに加え、比較的なだらかな道なのでおすすめだ。とはいえ、天候や季節に応じた準備と装備は、安全で充実した登山には欠かせない。標高差は1,000m以上あるので、距離と時間配分をしっかり計画して挑もう。

 千曲川の源流をたどる体験と山頂からの大展望は、他の山ではなかなか得られない唯一無二の登山体験となってくれるはずだ。

甲武信ヶ岳山頂から南に少し下った場所にある甲武信小屋。山バッヂや軽食など魅力的だ

●【MAP】甲武信ヶ岳

●【MAP】千曲川源流地点

●【MAP】毛木平駐車場