◼️旅では意識しなかった生活の条件

お店や観光客で賑わうタメル地区

 とはいえ、長期で暮らすとなれば当然ビザが必要になる。ネパール語の習得をマストにしていた僕は、語学を学べる大学に入学するのが(つまり学生ビザを取得することが)最善策だと考えるようになった。

 そのため、移住してしばらくはカトマンズ市内の大学に通おうと思った。その大学のキャンパスは、カトマンズ市内のタメル地区(バックパッカーと観光客にはお馴染みの繁華街で、日本でいうなら新宿あるいは渋谷のような場所。常にいろんな言語が飛び交い、トレッキング用品の店とレストランが密集している)から南東へ歩いて20分ほどのところにある。

カトマンズのローカル食堂

 通学のことを考えると、住む場所は学校から近いほうがいい。カトマンズの市街地には住宅街が点在していて、観光地とはまた違った表情がある。エリアによるが、1人暮らし用の物件なら家賃は3万円~5万円/月ほどが相場(近年値上がりしている)。自炊をして贅沢しなければ、1か月の生活費は1万~1万5,000円ほどあればまかなえるらしい。

 現地の空気感を思い浮かべながら、交通の便、スーパーの有無、そんな現実的なことも加味して、妄想がふくらんでいく。どのあたりに住むのがいいかなと地図を見ながら考えるのは、ちょっと楽しい作業だった。

ネパールで定番のチヤ(ミルクティー)

 カトマンズには何度も通っていたけれど、旅人として歩くのと、暮らす場所として見つめるのとでは、まるで目線が異なる。スパイスの香りも、行き交う人々も、クラクションとエンジン音が交じる雑踏も、ぜんぶがリアルになってくる。

 旅では意識しなかった生活の条件と向き合うことが、住むことを想像するための第一歩になった。こうして、気持ちだけが先走っていた時期を抜けて、ようやく地に足がついてきた気がした。