■丹沢のカジカガエルを襲った悲劇とは

丹沢のカジカガエルは、高尾と違い警戒心が強く、ちょっと動くだけですぐに水に飛び込んでしまいます

 別の日、私は夏鳥の姿を求めて丹沢の林道にいました。しかし、残念ながら大きな収穫もなく、とぼとぼともと来た道を戻るのみです。すると、あの「ルルルル……」が聞こえてきました。せめてカジカガエルでも撮影するか、と沢を覗き込むと、やはりいました。

 なぜかカジカガエルの姿を見ると心が癒されます。カジカガエルには不思議な力があるのです。吸い寄せられるように、望遠レンズを抱えながら河原に降りていきました。

頭や脚など体全体に群がる「ヌカカ」
たまらず前脚や後脚で虫を払いますが、「ヌカカ」は再び襲撃する気配

 すると、川の流れで濡れた石の上にカジカガエルが静かにたたずんでいました。しかし、ファインダーを覗くと、その体全体に何か虫がついているのです。拡大してよく見てみると、その虫の腹は真っ赤。体長1~2mmの小さな吸血昆虫「ヌカカ」です。目の上や脚、背中など、カジカガエルの体中に群がって血液を吸っています。

 見ている私の方が痒くなるような悲劇的な状況でしたが、カジカガエルは「渓流の貴公子」を気取っているのか、いたってクール。「蛙の面に水」ならぬ「カエルの体にヌカカ」とでも言いましょうか、全く気にしていないのです。いや、それは言いすぎでした。なにげなくそっと脚を動かし、ヌカカを追い払うのですが、ヌカカはどこまでもエグイ。カジカガエルの周囲をまとわりつき、次のチャンスをうかがっています。

 これが人間だったら、この後のかゆみにかなり苦しみ続けるはず。カジカガエルの今後を心配しながらも、私自身がヌカカの標的になることにおびえ、そそくさとその場から退散したのでした。