■氷河の跡「カール地形」にも注目
北海道の日高山脈や東北の鳥海山、越後の谷川岳、南アルプスの荒川三山、中央アルプスの千畳敷など、かつて氷河があったであろうと思われる場所は、全国各地に点在しています。しかし、日本に現存する7つの氷河は、5つが劔・立山連峰、白馬村の唐松沢を含む残り2つも北アルプス北部の狭い範囲に集中しています。
その理由は、冬に日本海からの湿った風がまともにぶつかる世界有数の豪雪地帯であること。さらに急峻な地形が多いため、吹き溜まった雪が雪崩で谷に集中して押し固められるからと考えられています。
かつて氷河が存在した場所を見分けるためには、「カール地形」に注目してみましょう。「カール」とは、氷河が動く時に山を削り出して形成される、アイスクリームをスプーンですくった跡のような半円形の谷のことを指します。水の流れで形成される一般的なV字型の谷に比べて、カールから氷河が流れ出して削られると緩やかなU 字型の谷になるのです。
周辺は夏でも雪が残り、常に水が豊富なので、美しい高山植物の花畑になりやすいのも特徴。もし、あなたが高山植物好きの登山者ならば、知らず知らずのうちにかつての氷河の恩恵を受けているってわけです。
■駅前からでも見える氷河誕生の可能性も
村内4つの雪渓の調査に関わってきた白馬山案内人組合長の松澤幸靖さんによれば、杓子沢雪渓、不帰沢雪渓、白馬沢雪渓は雪崩が起きやすく、一般的な登山や山スキーで通過する谷ではないため、気軽に足を運べる場所ではないそうです。しかし、特に杓子沢雪渓は駅や市街地からでも見ることができる、珍しい氷河となり得る可能性を秘めています。山に登らなければ見られない他の氷河と異なり、誰にでも氷河の存在を説明しやすく、今後注目度が高まれば、氷河に関するツアーを催行する可能性もあるとのことです。
実際に、環境問題に関心の高い海外から問い合わせも入っており、夏場の新たな観光資源として注目が集まっています。白馬村の教育委員会によると、「氷河がある村であることを地域住民や子どもたちに地域学習などの機会に伝えており、地域の特性を理解してもらい関心を高めてもらいたいと考えています」とのことで、白馬村近隣での認知度は日増しに高まっています。
調査結果をまとめた論文が日本雪氷学会に受理されると、3つの雪渓は正式に氷河として認定されます。白馬村に新しい氷河が誕生する日は、そう遠くないはず。新たな氷河をめぐる今後の動向に注目してみましょう。