「あっ、バッテリーが……」 スマートフォンの画面が突然消えたとき、あなたは地図が読めるだろうか。
誰しも登山を始めて、一度は登山アプリなしで山を歩いてみたいと考えたことがあるはずだ。多くの登山者は、紙地図(以下、地図)だけで歩くことにハードルの高さを感じているが、アプリから地図への移行は決して難しくはない。
筆者は1人でも多くの人に地図読みの楽しさを知ってもらいたいと思い、年に数回、初心者向けの地図読み講習を企画している。今回は「地図が読めるようになりたい」とSNSを通じて応募してきてくれたM子さん(40代女性)の地図読み登山の様子と、地図読みだからこその新しい山歩きの魅力を紹介する。
■地図読みフィールドに選んだ場所
今回フィールドに選んだのは、京都大文字山麓にある、通称「御陵三山(みささぎさんざん)」と呼ばれる山。御陵の名は天智天皇の陵墓(りょうぼ)があることから名付けられている。
標高300m未満で、尾根、谷、山頂を感じながら歩くにはコンパクトでちょうどよい。本来3時間ほどで歩ける山であるが、今回は地図で確認しながら5〜6時間かけてゆっくり歩く。
地図読み初心者と歩くときは、登ることよりも地形に意識を向けてほしいので、低山で小さなアップダウンがある山を選ぶことにしている。
■「怖い」が「楽しい」に変わる! 地図読み登山の魅力
登山アプリなし、地図だけでの山歩きは、本当の意味で「自分の足で山を歩くこと」になる。誰かの後ろをついて行くのではなく、自分の頭で考えて山に登るとなると、「GPSがないため、現在地がわからない」と考えるかもしれない。しかし、尾根や谷が延びている方向や、山頂、三角点、分岐などヒントは山の中にたくさんあるのだ。
地図が読めるようになれば、そうしたヒントを探し出せるようになり、自然と現在地を予測できるようになる。これはGPSと違って予測でしかないが、「この辺りにいるなら、この先に頂上があるはずだ」と、予測して実際に山頂に着いたときの喜びは、何物にも代えがたいのだ。
地図読みをするうえで、大切なポイントは3つに集約される。
・方角を意識して歩く
・分岐では必ず立ち止まる
・尾根、谷、山頂などの地形を感じる
これらは、紙の地図、アプリに関わらず、登山するうえで必ず意識してほしい。自分が歩いている地形と方角を知る、このシンプルな心がけだけでも道迷いのリスクは大幅に減少する。興味深いことに、過去の受講者の多くが「尾根・谷を意識して歩くという発想がなかった」と語っている。
いよいよ、M子さんの地図読みチャレンジがスタートする。