ぼくは「コラボレーション」という言葉に弱い。1社が単独で開発した商品も素晴らしいけど、そこに別企業のテイストが加わると、それまでになかった新しい価値が生まれる。そこに魅了されるのであります。
じつは缶詰業界でも近年、コラボ商品が盛んに発売されている。はごろもフーズの「シーチキンLフレーク」と、国分の「K&Kコンビーフ」が5対5で混ざりあった「シーチキンコンビーフ」とか。ピックルスコーポレーションの「ごはんがススムキムチ」で味付けしたイワシ缶「ごはんがススムいわしのキムチ煮」(信田缶詰)とか。もう、発想からして面白いじゃないですか。
これらのコラボ缶は、缶詰メーカーの主導で開発されるパターンだけでなく、他の食品メーカーが主導することもある。その典型が、明太子で知られる「ふくや」だ。これまで明太子のピリ辛味を生かしたツナ缶「めんツナかんかん」や、サバ缶「明太王鯖」などを企画・発売しており、今ではどれも人気商品に育っている。
でも、今回取り上げるふくやのコラボ缶は「ツンドラのボルシチ」という商品で、明太子が入っているわけじゃない。福岡市にあったロシア料理店「ツンドラ」(2021年閉店)が販売していたという、人気缶詰の復刻版なのだ。
■惜しまれつつ閉店した人気ロシア料理店
1960年に福岡市中央区で創業して以来、家庭的な雰囲気で親しまれていたロシア料理店「ツンドラ」。俳優やプロ野球選手などの著名人にも愛されていたが、後継者問題やコロナ禍の影響などで、2021年に惜しまれつつも閉店している。最後の営業日には店の前に長い行列ができたそうだ。
この店の看板メニューのひとつが「ボルシチ」だった。トマトの旨味を生かした優しい味で、豚バラ肉とジャガイモ、ニンジンなどの具が大きいのもウリ。当時から、その味を家庭でも手軽に味わえるようにと、食品メーカーに製造を委託して缶詰化し、店頭や通販などで販売していた。これがまた人気商品で、テレビの情報番組で取り上げられたこともあった。
しかし、製造を委託していた食品メーカーが缶詰事業から撤退したことで、ボルシチの缶詰は終売となってしまう。その後にツンドラも閉店したため、ツンドラのボルシチは二度と食べられなくなった、はずだった。
■復活したボルシチ缶をアウトドアで開ける
ここで場面は現在に戻る。ツンドラのボルシチ缶は、ふくやによって復活を果たしたのだが、その中身は一体どんなものなのか?
ボルシチといえばスープ料理。スープ料理といえばアウトドアだ。それも寒い季節にあえて外で食べれば、そのおいしさは10割増しになること間違いない(個人的な感想です)。
ということで、ボルシチ缶とクッカー類を持って八ヶ岳山麓まで出かけた。このところ、秋らしからぬ暖かい日が続いていたのに、午後から気温がぐんぐん下がっていき、夕方には約5℃まで下がった。震える手で缶を開けると、スープに含まれる脂分が塊になって浮いている。
■水を加えれば2人分の容量
この缶詰は内容量が450gあり、パッケージには「鍋にあけて水100mlを加えて温めれば2人分になる」と書いてある。その手順通りに、クッカーに水と缶の中身を入れる。
かつてツンドラの店舗で提供されていたボルシチは、具が大きいのがウリだったが、この缶詰の具もかなり大きい。クッカーに移し入れるときに「ドボンドボン」という音を立てるほどだ。料理中の音には「コトコト」とか「ジューッ」とかいろいろあるけど、「ドボン」というのはじつに頼もしい音である。