■中身が焦げつかないように気を配る
アルコールストーブに点火して、ボルシチを入れたクッカーを乗せ、いよいよ加熱開始!
固まっていた脂分はすぐに溶けて細かな泡になり、やがて表面がふつふつと煮立ってきた。アルコールストーブの火力は意外と強いので、中身が焦げつかないように、時々スプーンで全体をかき混ぜる。それでも火力が強すぎると感じたら、一旦クッカーを持ち上げ、火元から離すのも手である。
具を崩さないようにそっとかき混ぜていると、じわりと幸せな気持ちが湧き上がってきた。ぼくがアウトドアでもっとも好きな作業が、こうしてスープ料理を温めることなのだ。今回はたまたまアルコールストーブを使ったけど、焚き火で温めるのも幸せ度が高い。いずれにしろ熱源は何でもいい。のんびり、無心になって温めている時間がとても楽しいのだ。
■トマトと野菜、肉が生み出す重層的な味
かくのごとし。豚ばら肉は大きな直方体で、脂身と赤身の境目から千切れてしまうほど柔らかい。ジャガイモ、ニンジンも大きく、ひと口では頬張れないサイズだ。それらの合間に見えるのは、柔らかく透き通ったタマネギとビーツである。
スープの味はトマトの旨味が基礎になっていて、そこに野菜と肉の旨味が重層的に加わっている。ほんのりした酸味と、後を引くような甘味。大きな具を食べつつ、パンをスープに浸して食べると、確かに1缶の半量で腹が満たされた。
それにしても、なぜふくやがボルシチの缶詰を復活させたのか?
同社は福岡県内を中心に直販店を展開している。直販店とはいえ、他社製品も扱う、いわばセレクトショップのような店なので、ツンドラが営業していた時代にはボルシチ缶も扱っていたそうだ。
また、ふくやの社員にはツンドラのファンも多かったと聞く。同じ地元の企業として(ふくや本社も福岡市)、かつての人気商品をふたたび世に送り出す、その手伝いをしたくなったのではないだろうか。
もしそうなら、かなりの情熱が必要だったはずである。何しろ、かつて製造を担っていたメーカーは缶詰事業から撤退しているのだ。まずは製造を引きうけてくれる缶詰メーカーを探し出し、交渉することから始めないといけない。旧ツンドラ経営者からはボルシチのレシピを正式に受け継ぎ、缶詰メーカーと供に試作を繰り返して、納得のできる味になってようやく発売に至るわけだ。
「福岡人は情に厚い」とよく言われる。それを地で行くようなストーリーであります。
●今回の缶詰情報
ふくや「ツンドラのボルシチ 内容量450g」