■兵庫県天然記念物「越木岩神社社叢林」

 まだ建てられて間がないであろう戸建て住宅に囲まれた中に、越木岩神社の森がある。樹々はヒメユズリハが主で、兵庫県天然記念物である「越木岩神社社叢林」として保護されている。

越木岩神社の正面大鳥居

 正面の大鳥居を越えると、左側に鳥居の形をしたオブジェがある。阪神・淡路大震災復興碑で、地震のときに倒壊した旧鳥居を活用して建立されたとする。

旧鳥居を活用した震災復旧・復興の碑

 参道をまっすぐ進むと本殿があり、祀られている祭神は1656年に西宮神社から勧請された蛭児大神。ということは、越木岩神社の創建は、まだ歴史が浅いということになる。

 だが、それは早合点というものだ。

 本殿を左に迂回して裏手にまわると、市杵嶋姫命(いちきしまひめのみこと)を祀る「岩社」がある。その祠の裏にあるのが甑(こしき)岩。越木岩神社のご神体である。

 大きさは周囲約40m、高さ約10m。堂々とした風格のあるたたずまいを見せる巨石だ。

 甑岩の北には第2の磐座があり、さらに北には第3の磐座がある。ハイキングコースのある北山にも、山中に巨石や磐座があるらしい。つまり越木岩神社は、「磐座(いわくら)信仰」のために建立された神社だと考えられるのだ。

 磐座信仰とは、巨石や岩を神霊の宿る場所として祀り、崇める日本古来の信仰のこと。越木岩神社は600年から700年頃の創建だとしているが、さらに古い可能性も否めない。

 となると、甲陽園に人が住み始めたのは、かなり昔のことになる。古くからの信仰を支えてきた人々の暮らしがあった土地を新たに宅地開発し、今の姿に進化したというところだろうか。

 ここまで紹介してきた甲陽線の特徴を言い表せば、徹頭徹尾の上品さだ。街並みや行きかう人、ただよう空気の香りですら品をまとっているような気がする。

「気品に満ちた2.2km」

 そんなフレーズが実感できるのが、阪急甲陽沿線なのだ。