ようやく晴れた“魔女の瞳”と初めてのご対面

火山らしく荒涼としながらも、周囲の景観が抜群の山頂部。とにかく広い!

 一切経山という山名がとてもいい。仏教由来を感じさせるこの響きには浄土感があり、実際に歩くと穢れや煩悩といったものから離れ、浄化されていく雰囲気が漂っている。というのは、ぼくの勝手なイメージだけれど。調べてみると、平安時代の武将・安倍貞任(あべのさだとう)が一切経の経典を埋めたという伝説が由来のひとつのようだ。貞任は、前九年の役で活躍した東北の武将である。

 山頂部はとても広く、見晴らしは360度の絶佳。福島や宮城の名山の数々と、遠く仙台平野をも見渡すことができる。ポイントは、山頂碑で引き返してしまわないこと。少し過ぎた先に、この山の名を有名にした“魔女の瞳”を見下ろす絶景ポイントがあるからだ。これを見ずに下山したら、とてつもなく後悔することになるだろう。晴れていればなおさらのこと。絶対にお忘れなく!

雲に覆われることが多い“魔女の瞳”こと五色沼

 じつはこの山、過去に登ったときはガスに覆われていた。だから五色沼は、雑誌やSNSで目にする写真でしか知らなかったのだ。こうして実際に見ると、間近に対面する“魔女”は画像で見るよりも断然美しく、瞳の奥に映る澄んだ青空と真っ白な雲がまぶしい。

 たまたまこの日は、五色沼を囲う山の際まで大雲海が広がっていたため、幸運にも魔女の瞳と雲のドラマチックな競演を目撃することができた。これだけの絶景を拝むことができるのだから、同じ山にたびたび登ることも悪くはないと思うのだ。

■秋は足元の花、下山後の温泉も楽しもう

木道に沿って咲いていたウメバチソウ。花言葉は「いじらしさ」

 夏の高山植物から秋を告げる花へと移り変わりつつあった一切経山。足下にはウメバチソウ(梅鉢草)が多くみられた。またの名をバイカソウ(梅花草)というこの花は、その名の通り梅の花によく似ている。控えめに咲くいじらしい花だけれど、湿原においてはとても目立つ、秋の主役ともなる存在。

 空だけでなく、足下にも秋の気配を感じた東北の山の旅。下山後の締めくくりは、もちろん地元の温泉である。

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