■雷鳥に出会えるかも!? 室堂平ハイキング
長いトンネルを抜けて到着した室堂平には、真っ青な空の下に緑の濃淡と真っ白な雪が輝く爽快な景色が広がっていた。「さぁ、歩き始めるぞ!」と張り切って掲示板の地図を確認しに行こうとしたら、目の前に100人を超えるヘルメット姿の小学生の大群が集まっていてびっくりした。どうやら夏休み直前の地元の小学生の遠足か何かのようで、説明を聞いた後、ガイドさんや先生方に引率されて元気いっぱいに歩き始めた。
「ここって、2,400m以上あるよね? 高山でこんなにたくさんの小学生のグループが歩いている光景は初めてみた」と相棒も目を丸くしている。イタリアのアルプスは基本的に個人の登山者がほとんどで、グループもせいぜい4、5人の家族連れか、多くても10人程度のボウイスカウトグループ、というのが普通。小学生が親の同伴もなく、こんなに大勢で高山を歩くというのは、イタリア人には信じられないことのようだった。
「こんにちわー!」「こんにちわー!」という元気いっぱいの挨拶が途切れることなく響き渡り、我々も思わず笑顔になる。「下のインフォメーションでは『7月はこの辺りで雷鳥が見られる』って言ってたけど、こんなに大きな声が響き渡ってたら、雷鳥もどっかへ逃げ出しちゃっただろう」と言い合って、大笑いしながら小学生軍団の後ろ姿を見送った。
■緑の山と独特な高山植物、色の多彩さに感激
室堂平は標高2,450m地点に広がっているが、歩き始めるとすぐ、相棒が呟いた。「色がすごく多い」。なんのことかと尋ねてみると、「イタリアの山は2,500mから上は、暗い針葉樹の森を除けばどんどん色が茶色かグレー、白のグラデーションになっていくのが普通。でもここには濃い緑から薄い緑、黄色まで、すごくいろんな色のグラデーションがある。一方で、まだ雪もたくさん残っている。こんなに豊かな緑と雪が一緒にある風景は珍しいよ」とのことだった。
雷鳥はとっくに諦めたが、道々、可愛らしい花や青々とした松など、日本アルプスならではの高山植物たちが目を楽しませてくれた。高い山に生息する植物たちは、どうしてこんなに健気で愛おしいのだろう。イタリアのアルプスでもいつも感じている小さくてたくましい命への尊敬と愛情の念が、ここでも一気に湧き上がってきた。
■北アルプスで最も美しい火山湖にため息
道の両脇を彩る植物の数々に目を止めながら、時折立ち止まっては目線を上げて周囲の雄大なパノラマを見渡す。軽いハイキングながら、山へ来た、という満足感が得られる室堂平のコースは歩くのがとても楽しい。みどりが池で背後の雄山を見上げ、その先へ進むと今度は強烈な硫黄の匂いが漂ってきた。この硫黄の匂いというのも日本の山ならでは。室堂平のコースの途中には、日本一高所にある温泉として名高い「みくりが池温泉」もある。日帰り入浴もできるらしく、歩き疲れた体を温泉に浸かってリフレッシュしている登山者もたくさんいた。
みくりが池温泉を過ぎると、目の前に真っ青な水を湛えたみくりが池が見えてきた。背後に広がる山脈の緑と雪の白、青い湖水のコントラストがなんとも美しく、文字通り絵葉書のような景色だ。この風景は、立山黒部アルペンルートを代表する美観の一つで、みくりが池は北アルプスで最も美しい火山湖と言われているそうだが、それも納得の美しさだった。ちなみにこの湖周辺は雷鳥に出会う確率が高いスポットらしかったが、とにかく人がたくさんいたので、ここでもやっぱり雷鳥にはお目にかかれないだろうな、と諦めた。
(後編「標高2831mの浄土山へ」に続く)
文・写真/田島麻美