■苦戦する僕を尻目に彼女の一本!
まずは入渓早々の魅力的なポイント。当然そこは紳士的に譲ります。ロッドを組みながら様子を見ていましたが、思わしい反応がない様子。そこでマウントを取るべく、いや彼女の不安を払拭するべく、目の前でフライを流して見せます。2度、3度……、水面を破って魚が飛び出しました! が、イワナ以上に僕がうわずっていたのでしょうか、なかなかフッキングしません。
魚がいることを確認して安心したのか、すかさず彼女は離れていき再びルアーを投げ出しています。一方の僕はといえば、なかなかハリに掛からない魚に躍起になってしまっていました。呼ばれた気がして顔を向けると、彼女が何やら屈んでいます。手にはネットが握られています。釣れています。どうやら大きめの魚のようでした。
果たして、ネットの中には20cm後半の太く逞しいイワナの姿がありました。その野趣溢れるボディと精悍な横顔にうっとり見惚れながら、すっかりご満悦の様子です。幸先のいい一本に安堵しつつ、僕もそろそろ一匹釣りたいところです。
■僕は「小さくて、カワイイ!」いただきました……
流れが干渉しあって鏡面のようになった部分にフライを漂わせていると、浮上してくる魚の顔がわずかに確認できますが、途中で引き返していきました。しばし流れを観察していると、カディス(トビケラ)の成虫が水面をスケーティングしながら徐々に下流へ流されていきました。先ほどの場所から大きなイワナが飛び出しました。食べ損なったのか、カディスはまだ水面に残っています。すると、すかさずもう一度。今度はうまく飲み込んで水中に消えていきました。ひと呼吸おいて、同じようなカディスパターンのフライを流します。我ながらうまく流したつもりでしたが、流れは沈黙を守ったままでした。
さらに上流へ。そしてついに魚がフライを咥えました。少々オーバーアクションでロッドをしならせます。そう、僕のロッドは柔らかいグラス素材の竿で、曲がりっぷりがいいのです。彼女もさすがに気にはなっていたのか、駆け寄って(実際は足元が悪いのでゆっくり歩いて)来てくれました。嬉しさ半分、実はあまりそばに来て欲しくない気持ちも……。魚を見た彼女が一言。「小さい! あ、小さくて、カワイイ」