「同じ場所ばかり滑っていると飽きないの」と、言われることがあるかもしれない。滑っている側からすれば、場所は同じでも条件は毎日変わるから、飽きる理由がないのだ。滑るほどにスキー場の状況が手に取るようにわかり、精度の高い積雪予測や溜まっている場所の目星がつけられるホームマウンテン。ひとつのスキー場やBCエリアを知れば、その場所の魅力に気づくのは間違いない。ここからはホームマウンテンにまつわる様々な話をお届けしよう。

■サッポロテイネと中西太洋

中西太洋(Taiyo Nakanishi)
サッポロテイネを中心に北海道内の山を滑る。シーズン中は映像や写真作品の撮影やイベントを中心に活動している。エリック・ヨレフソンがアイドル。現在はその彼と同じマテリアルを使用。夏場はグラベルロードに夢中

●斜度で選んだ日本のベース

 2009年までウィスラーでスキーバム生活を送っていた中西太洋。日本へ戻ってくる時にホームマウンテンとなる山を決めたのはある人物の一言だった。その山の魅力とは。

テイネハイランドからは広大なBCエリアも広がっている。スキー場が定めた「テイネゲート」からのみアクセスが可能。自由を満喫できるが、責任が伴うのは言うまでもない

●ワクワクするような刺激的な斜面を求めていた

 「テイネをベースにしたのは、ウィスラーで出会った妻のホームマウンテンだったからですよ。北海道で滑るならテイネで間違いないって彼女が言うから、スキー場の近くに家を借りて、日本へ戻ってきたんです」

 そう話すのは、過去にウィスラーでスキーバム生活にどっぷりと浸かっていた中西太洋だ。フリースタイルスキーに憧れ24歳で海を渡り、雪のある限りウィスラーを滑り尽くしていた彼だが、バンクーバー五輪の前年、2009年に日本へ戻ってきた。帰ってきたはじめの1年だけ、児玉毅の紹介でスノードルフィンの尾形信さんがカムイスキーリンクスでスクールを開校するのを手伝いに行ったが、それ以降10年近く、シーズン中の大半をサッポロテイネで滑り続けている。

山頂裏のシティビュークルーズコース。札幌の街に飛び込むようなロケーションが美しい

 サッポロテイネは強い滑り手を育てる2つの難コースと、三浦雄一郎&スノードルフィンスキースクールの総本山として、全国区として知られるスキー場だ。子どもの頃からここを滑り、スクールに入っていたスキーヤーの名前を挙げればキリがない。また、そうした面々の面倒を見るコーチ陣も錚々たるメンバーだ。元モーグルナショナルチームのコーチをはじめ、佐々木大輔や児玉毅など、今のスキーシーンを築き上げてきた精鋭が揃う。

 中西はそうした予備知識なくこのスキー場へ飛び込んだ。彼はもともと滋賀県の出身。北海道と言えばニセコというざっくりとしたイメージしか持っていなかったため、テイネのことをよく知らなかったのだ。

 ただ、その選択が間違いでなかったことを、カムイでのスクール生活を終えた、次シーズンに実感する。

 「ニセコや札幌国際、キロロも滑っていたけど、なんかちょっと物足りなさを感じていました。ウィスラーで滑っていた斜面感覚が自分基準になっていたので、ワクワクするような刺激的な斜面を欲していたんです。

 '11季のシーズンインに初めて女子大(女子大回転)を滑った時に『ココだ』ってすぐ思いましたね。コースは急斜面で、下までの距離も長い。コースが巻いていてネジれているし、落ち込みもあって、なんて言うか斜面が平べったくないんですよ。そうした地形にあわせてラインを変えれば、いくらでも滑る場所が見つかる。雪のつき方によっては、毎回滑走フィーリングが変わるから、こんなラインがあったのかと発見は尽きないです。最初に滑った女子大のインパクトは大きかったですね。やっぱり急斜面が好きです」

●テンションの高いままコースを何度も回せる

 サッポロテイネは手稲区と西区にまたがる標高1,023mの手稲山にレイアウトされたスキー場だ。山頂からは石狩平野をはじめ、市街地や石狩湾などが見下ろせ、ロケーションの良さも魅力の一つとなっている。

 スキー場は1972年に開かれた札幌五輪のアルペンスキー競技会場として知られ、その時の名残がいくつも残っている。女子大回転コースという名称も五輪で開催されたコース名がそのまま使われているのだ。

 ここは北かべなどがあるハイランドゾーンと聖火台が設置されたオリンピアゾーンの2つから構成されている。

コブ斜面は北かべ以外にもあらゆる箇所に出現

 ハイランドゾーンは急峻な山肌にコースがレイアウトされ、オリンピアゾーンは比較的なだらか。そのため、斜面構成はビギナーから上級者がそれぞれに満足でき、多彩な全15コースが揃っている。リフトとゴンドラは10基あり、札幌市街地から近いスキー場の中では最大規模だ。

 「テイネの斜面はほぼ北を向いてるので雪が悪くなりにくい。ハイシーズンなら一日中いい雪が保たれてるのが魅力かな。それと、冬の嵐で市内近くのスキー場が全てクローズしている時でも、オリンピアは動いていることが多いんです。そんなウズウズする時でも滑走欲が満たせます。

 ハイランドはベース部分になだらかな場所がないので、息をつく間もなく、テンションの高いまま、コースを回せるのもテイネの面白さの一つにあると思います。それにリフト待ちがほとんどないほど、リフトの運送能力が良いんですよね」

 と、テイネに惹かれるワケを語る中西。基本的に1人で滑ることが多い彼は、女子大コースや北かべをまるで道場で稽古をつけるかのように滑っている。パウダーの時はもちろん、コースが荒れてきても、それがまた練習になると滑り続けてしまう。とくに、この2つのコースにかかっているリフトの乗車時間と、それぞれのコースとの滑走時間のバランスが絶妙。リフト上で休憩をはさみつつ、でも集中力を切らさずに滑れる絶好の滑走環境が整っている。

テイネハイランドからは広大なBCエリアも広がっている。スキー場が定めた「テイネゲート」からのみアクセスが可能。自由を満喫できるが、責任が伴うのは言うまでもない

 朝イチから滑り続け、昼の混雑時を避けるように11時に休憩を兼ねた食事を摂り、そのあと14時まで滑り続ける。これが中西のテイネで滑るタイムスケジュールで、似たような行動をとるスキーヤーも多いとか。そんな中西にとって、一昨季の「ザ・デイ」はどんな一日だったのか。

●2022年2月23日、営業が終了する16時までずっと腰パウを滑りました

 「覚えてますよ、雪が良すぎて帰れなかったですからね。あれは2月23日でした。営業が終了する16時までずっと腰パウを滑りました。その日は少し小雪がちらつく程度のくもり空。コース脇はもちろん、森の中までどこもノートラックが一日中残っていましたね。風がないなかで積もった雪は、旭岳以上じゃないかって思うほどのドライパウダー。ゲレンデを滑るだけなら、曇っているくらいががちょうどいい。光が入ると雪が悪くなるから一日中楽しめないですからね」

石狩湾をバックにフレッシュなパウダーを上げる中西。世界中を見渡してもこのようなロケーションはなかなかない

 彼にとって、テイネの滑走環境は申し分ないものだ。スキー場の規模を求めてもキリはないが、テイネにはウィスラーにも劣らない滑走欲を満たしてくれる斜度がある。斜面のバリエーションも豊富で、コブもあれば、ツリーラン、緩斜面もある。そんなスキー場を若いスキーヤーたちをはじめ、いまも多くの滑り手が上手くなろうと滑っている。そうした環境も彼は気に入っている。「子どもの頃からここを滑っていたら、もうちょっと今より上手くなってたんじゃないかな」と思ったことも幾度もある。

 ウィスラーの次に選んだホームマウンテン・サッポロテイネは、彼にとっては滑るモチベーションを高め、スキー技術を進化させる、飽きないスキー場だ。