個人的に昔から沢登りが好きで、シーズンになるとあちこちへ出掛けているのだが、一度だけ沢の中で遭難者の遺体を発見してしまったことがある。

 それは新潟の苗場山の沢でのことで、遭難者は1か月ほど前に行方不明になったハイカーだった。登山道から沢筋に迷いこんでしまい、そのまま元の登山道へ戻れず亡くなったと思われる。

 発見した時は大きな滝壺に遺体が浮いており、それだけでも大変ショッキングなのだが、先に進むにはそのすぐ横を通過せざるを得ない。非常に怖かったが息を止めて一心に泳ぎ、滝を越えたら決して滝壺を振り返らずその場を離れた。今まで山であれほどの思いをしたことはなかった。

 下山後すぐに警察へ詳細を報告し、翌日遺体はヘリコプターで無事回収された。

 後日、地形図を改めて確認したところ、遭難者がどこから道に迷ったか推測できた。登山道が緩い尾根をまたいで急カーブする、明るい時刻ならば間違えないような場所だ。恐らく遭難者は夕方、暗くなりかけた時刻に道を間違えてこの尾根を下り、そのまま沢へ入り込んでしまったようだ。

道迷いの例。本文内容と関係はない(国土地理院地図より引用し作成)

 後日、ご遺族を訪ねて遺体発見時の状況などを説明する機会があった。その時聞いて大変驚いたのだが、ご遺族はその登山の予定は聞いておらず、遭難者が帰宅せず、行方不明になった後で知ったとのことだった。

美しい滝との出会いは沢登りの醍醐味の一つ(※本文とは無関係)(撮影:望月慎一郎)​​

■沢筋へ迷い込むとなぜ危険なのか、その5つの理由

 このような道迷いから遭難に至るケースは実はかなり多く発生している。令和5年6月15日​​に警察庁により発表された『令和4年における山岳遭難の概況』では山岳遭難の原因TOPは道迷いで、全体の36.5%とのこと。そして、もし道に迷って沢筋に迷い込んだ場合、以下の5つの理由で正しいルートへ復帰するのは非常に難しい。

理由1:沢筋では視界が狭く、正しい方角を知ることが難しい
理由2:険しい岩場や崩落した斜面での滑落リスクが高い
理由3:谷底から単独で装備もない状態で登り返すのは非常に困難
理由4:雨天時はすぐに水位が高まり危険
理由5:冷たい水で低体温症のリスクが高い

 私のこれまでの沢登りの経験からも、その山自体は緩やかな低山であったとしても、沢筋は深くえぐれた地形で岩盤も露出し、容易に登れない滝が多数掛かっているといったところはかなり多い。よって、あなたがもし山で道に迷った場合は、決して沢を下りないでほしい。

険しい谷に迷い込んでしまったら、沢登りの技術や装備なしでは登山道へ復帰するのは非常に難しい(撮影:望月慎一郎)​​