■ひょんなことからインストラクターの道へ
その頃、自然教室でナイフの使い方を教える機会を得た。モーラナイフならしっかりとした造りのものが2,000円ほどで買えるため、教材として毎月数十本のモーラナイフを買うようになった。
「変に疑われるのも嫌だったから、一度ちゃんと断りを入れたほうがいいかなと思って、モーラナイフの代理店に電話したんだ」
すると、それならオフィシャルのインストラクターとしてイベントで実演して欲しい、という依頼が届いたそうだ。以降、モーラナイフ公認のインストラクターとして、毎週末のように各地に赴き、安全で楽しく、逞しく生きるためのナイフの技術を教えてきた。
今では一般的になりつつある、「ブッシュクラフト」という言葉やカルチャーだが、自分が何年も掛けて「原始キャンプ」でやってきたことと同じだったなと、後になって気が付いたのだという。越山さんの場合、やってきたことに言葉が後から着いてきたのだ。
■ブッシュクラフターはサバイバリストではなく、ナチュラリストであるべき
「今やブッシュクラフトは単なるブームではなくて、世界的に求められているような気がする。森の持つヒーリングパワーっていうか、樹木が出すフィトンチッドっていう物質は、人の神経を整えて、免疫力を上げるってことが科学的にも証明されてるしね。数日間森の中で過ごすと、一月くらい免疫が上がるっていうデータもあるみたいだし」
「ブッシュクラフトの世界的な大家、デイブ・カンタベリーも言っていることなんだけど、ブッシュクラフターはサバイバリストではなく、ナチュラリストであるべきなんだよね。自然に反発するのではなく、溶け込むっていうか。だから植物や環境のことをもっと知りたい、って思うのは自然なことなんだと思う」。
かつて、ネイティヴアメリカンは「知識ではなく知恵を求めよ。知識はただの産物だが、知恵は未来をもたらす」「自分よりも偉大なものには、常に畏敬の念を持て」という言葉を大事にしていたそうだ。
このような経験を経て、越山さんは今年から地元・静岡県島田市で、自身が主催する野外活動を楽しむためのワークショップを開催している。来年には、自らがデザインしたオリジナルナイフの発売も控えている。まさに、越山モデルと言える一本だろう。同時に、50年代の北欧のナイフを復刻させるプロジェクトも進行中だ。
彼の声は、森の中でも良く響く。そして明るくて力強い。眼力も凄い。だがそれは威圧するようなものではなく、どこか優しく包み込むような力があった。
@satoshi.koshiyama