■野営のコンセプトは「原始キャンプ」
日本に戻ると、家族で静岡県に移り住んだ。そして会社員として働きだした。
と同時に、「原始キャンプ」というコンセプトでの野営を始めた。装備はシートにブランケットとナイフ、それと食器を少々。必要最小限のものだけを持って山に入るスタイルだ。
その他に必要なものは、山にあるものを工夫して作り出した。シートと木の枝で屋根を作り、焚き火を起こして料理をし、ブランケットに包まって草むらで眠った。
「なぜかその時は、俺は今これをやらなきゃいけないんだ! っていう気持ちでいっぱいだったんだよね」
富士山の麓では、野犬の群れに襲われかけたりもした。だけど、まったく止めたいとは思わなかったそうだ。
■ナイフワークに一番大切なのは「理性と判断力」
そんな時に、丈夫で本格的な造りのブレードと樹脂製のグリップの組み合わせで、価格が手頃なモーラナイフと出会った。ナイフのコレクションはその当時からかなりの数だったが、気軽に使い倒せるモーラナイフとの出会いによって、ますますナイフの魅力にハマっていったという。
「ナイフは、とてもメンタルな道具なんだ。その時の心の状態が刃先に現れるんだよ」
越山さんはそう言ってあっという間に木の枝でペグを作り、フェザースティックを削り出した。
たとえば、バトニング(ナイフで巻きを割る行為)にしてもフェザースティック(細い薪を鳥の羽のように削って作る焚き付け)にしても、力はそれほど必要ない。リラックスして当てれば、刃は自ずと入ってくれる。
「切れないものや割れないものは、無理にやろうとする必要はない。割れなければ薪にして燃やせばいい。力任せにすると、刃こぼれしてしまったり、怪我をすることもあるからね。忘れてはならないのは、刃物は人を傷つけようと思えば簡単にできてしまう道具だってこと。ナイフワークに一番大切なのは、理性と判断力だね」
怖がって不安な気持ちでいても、逆に興奮していても、どちらも危険なのだ。