夏の盛りは過ぎたものの、残暑の厳しい日々が続いている。しかしながら山へ登れば、秋が近づいている雰囲気も感じられる今日この頃、筆者は兵庫県高砂市にある、播磨アルプス縦走路を訪れた。
筆者は播磨アルプスが晩夏でも相当暑いことを知っている。そのため、熱暑対策に万全の準備を整えて臨んだにもかかわらず、途中で酷暑の登山道を危険と判断し、エスケープルートから撤退した話をお伝えしよう。
■晩夏の播磨アルプス縦走路
播磨アルプスはコース全体的に眺望がよいうえ、アクセスも容易で人気の登山コースだ。
播磨アルプスが位置する兵庫県高砂市は、姫路市の東隣。今回筆者が利用した豆崎(まめざき)登山口から姫路城までは10km程度である。豆崎登山口から最寄りのJR曽根駅までは、JR姫路駅から4駅で到着。JR曽根駅から登山口までは350m、徒歩5分程度とアクセスも良好だ。
播磨アルプスの最高峰は、標高304m(三角点は299.7m)の高御位山(たかみくらやま)。300mにも満たない低山でありながら、登山道の大部分が岩の上であるため、視界をさえぎるものがないダイナミックな眺望が楽しめる。ただ逆を言えば、夏場は木陰が少なく、冬場は寒風の直撃を受ける厳しい登山道でもある。
最高峰の高御位山は山名から想像がつくように、山自体が信仰の対象であり、縦走路は修験道の道。苛酷な環境にも納得がいく。今回計画したのは西から東へ約8km、高低差約280mの行程だ。
高御位山
〒675-0334 兵庫県加古川市志方町成井
■【MAP】高御位山
豆崎登山口
〒676-0827 兵庫県高砂市阿弥陀町2087
■【MAP】豆崎登山口
JR曽根駅
〒676-0815 兵庫県高砂市阿弥陀1-6
■【MAP】JR曽根駅
鹿嶋神社
〒676-0828 兵庫県高砂市阿弥陀町地徳279
■【MAP】鹿嶋神社
■暑さ対策
播磨アルプスは姫路を訪れる際、美しい山容に毎回気になっていた山である。今回初めて訪れるが、播磨アルプスの暑さは夏の終わり頃でも、相当なものだということはリサーチ済み。そこで、持てるすべての暑さ対策を準備して縦走に臨んだ。
まず準備したのは、炎天下で農作業する農家から教えてもらった麦わら帽子と長袖シャツ、冷たいスポーツドリンクだ。麦わら帽子は風通しが良いし影になる部分も大きく、キャップタイプの帽子よりも涼しい。長袖シャツはかえって暑そうなのだが、直射日光が直接皮膚にあたらないので疲労を軽減できる。冷たいスポーツドリンクは言うまでもないが、今回は凍らせた2Lのスポーツドリンクと、同じく凍らせた水2L、計4Lの飲料を持参した。
続いて、カチカチに凍らせた保冷剤約30個を保冷バッグに入れ、タオルと風呂敷で溶けないようにくるんで持参。これは首元やわきの下に当てて体を冷やしたりするのに利用した。
加えて、保冷剤を頭にのせ、しっかり濡らした気化熱冷却タオルを頭にかけ、その上から麦わら帽子をかぶり、ネッククーラーで冷却。
これだけやれば、何とか縦走路は歩ききれるかもしれない。しかし、油断は禁物。念のため、危険になった際のエスケープルートも確認して播磨アルプスへ向かった。
■撤退する勇気
播磨アルプスを訪れた日は快晴で、最寄りのJR曽根駅から豆崎登山口までの徒歩5分ですでに汗だくになってしまった。
登山口から尾根までは急登だが、5分も歩けば眺望が開けた緩やかな登山道に変わる。ところがこの時点ですでに暑さでクタクタになってしまった。また眺望がよいということは、直射日光を受けるということでもある。凍らせた水も、半分以上溶けていた。
登山口から最初に至るピークは標高155.5m、次のピークは156.3mである。2つ目のピークに至った時点で、持ってきた凍らせた水はすべて溶けていた。
通常なら散歩がてら歩けるような標高でも、今回はさすがにそうはいかない。肌で感じる暑さはサウナとまったく同じで、吹いてくる風も熱風である。そのため、こまめに水分補給をしても、すぐに汗だくの状態を突破してしまう。汗だくの状態を突破すると汗が止まり、口の中も乾燥し始めるため、慌ててさらに水分補給をする繰り返しだ。
3つ目のピークの標高は193.9mであった。この時点で持ってきた4Lの水は残り1L、30個くらいあった保冷材は溶けていなかったが残り半分くらいで、歩いた行程は全体の1/4。この状態で残り3/4の行程を行くのは無謀である。撤退だ。
しかし、今回の企画は縦走。現状、撤退という選択肢しかないのだが、行程のたった1/4しか進めていない。木陰を見つけて、休憩がてら悶々とすること30分。撤退を決断し、次のコル(ピークとピークの間にある鞍部)から鹿嶋神社へ無事に下山できた。下山時点で水の残りは0.5L以下。あのまま撤退せずに進んでいたらと想像するとゾッとする。
登山を始めとしたアウトドアに出かける際、誰しも貴重な休みを使って行くわけだ。だからいかなる理由であっても、予定をキャンセルしたいとは誰も思わない。ましてや現地に到着した、あるいは今回のようにすでに山の中という場合ならなおさらだ。
十分な対策を講じていても、山で絶対はない。天気の急変や今回のような熱暑など、状況に応じて、撤退を覚悟しなければならないときもある。撤退の決断を下すのには勇気が必要だが、早めに決断することが、自身を守り、またこれからも長くアウトドアを楽しめる秘訣。改めて「撤退する勇気」を学んだ次第である。