群馬県と新潟県の県境にそびえる谷川岳は、日本百名山に選ばれている名峰。「トマノ耳(標高1,963m)」と「オキノ耳(標高1,977m)」という2つのピークをもつ双耳峰で、山麓から見ると猫の耳のように見える。

 山頂に至るルートは複数あるが、最も登りやすいのが群馬県のみなかみ町から谷川岳ロープウェイを使ってアプローチする方法だ。首都圏から行きやすく、マイカーなら2時間ほどの距離。電車利用でも、上越新幹線の上毛高原駅からバスをうまく乗り継げば、東京駅から2時間ほどで入山できるので、日帰りで登ることもできる。このロープウェイを使って登るルートを実際に歩いてきたので、その魅力を紹介していきたい。

■ロープウェイに乗っていざ出発!

山の間を通り抜けながらぐんぐん高度を増していく谷川岳ロープウェイ

 谷川岳ロープウェイ山麓の土合口駅は標高746m。ここから標高1,319mの天神平駅ま高低差573mを一気に上がれるのはうれしい限り。木々が茂った緑の森を眼下に山へと向かう15分の空中散歩も楽しめる。山頂駅へと降り立てば、そこは色とりどりの花が咲く広々とした草原が広がっている。このエリアは冬季は「谷川岳天神平スキー場」が営業しているが、夏場は避暑にぴったりの清涼な高原だ。

ロープウェイを利用することで谷川岳山頂まで少ない高低差で登ることができる
緑に包まれた夏のスキー場。この周辺だけ散策していく観光客も多い
標高1,319mにひと息で上がれる谷川岳ロープウェイ

 

■山頂駅から入山

山頂駅から登山スタート。谷川岳山頂まで3.5kmの距離だ

 ロープウェイ山頂からさらにペアリフトで上がって谷川岳を目指す方法もあるが、今回は山頂駅からそのまま入山。リフト乗り場の横に入山口があり、はじめは斜面をトラバースするように登山道が延びていている。ゆっくりと高度を上げていくとリフト山頂から続くルートと合流し、ここが天神尾根に出るところ。あとは、尾根沿いにひたすら進んでいくのみだ。

 ルートは変化に富んでおり、歩きやすい木道があるかと思えば、岩をよじ登る鎖場もある。「そろそろ、休憩したいな」と思った頃に赤い建物の熊穴沢避難小屋に着き、ここでひと息つく。小屋からさらに登っていくと、だんだん視界が開けてきて、西側には存在感のある俎嵓(まだいたぐら)が見えてくる。振り向くと登りはじめたスキー場が遠くに見え、着実に進んでいることが実感できる。

熊穴沢避難小屋の周辺は平らになっているので休憩に最適
急斜面の岩場に設置された鎖場がいくつもある。慎重に登りたい

■標高1,500mで森林限界を突破

森林限界を超えると青々とした笹原に。ここを登りきれば肩の小屋に着く

 谷川岳は、冬になると日本海側から雪雲が流れ込んでたくさんの雪を降らす豪雪地帯として知られている。その厳しい気候により、標高1,500m付近で森林限界になるという。このため、標高2,000mに満たない山でありながら、日本アルプスのような高山を歩いている気分になる。また、標高の低い場所でもたくさんの高山植物を見られるのは、こういった特殊な環境の恩恵だ。

 森林限界を超えた天神尾根の後半は高い樹木がなくなり、山を包み込むように笹原が広がっている。これを登っていくと途中に「天狗の留まり場」という大岩があり、この上に立つと大展望が楽しめる。笹原の階段を登り詰めた先が肩の小屋。ここまでくれば山頂はもうすぐだ。

標高の低い山でありながら高山植物が豊富なことも谷川岳の大きな魅力。穂状の長い青紫の花はクガイソウ

■2つのピークを走破!

「トマノ耳」の山頂。空気の澄んだ日には富士山まで見えるというが、この日は見られず

 2峰のうちのひとつ、「トマノ耳」は肩の小屋から10分ほどの距離。山頂からはパノラマで景色を見渡せ、谷川岳と向かい合うように広がる白毛門や笠ヶ岳、朝日岳の山並みをはじめ、尾瀬の至仏山や燧ケ岳、武尊山、赤城山などを一望できる。

 もうひとつの山頂である「オキノ耳」はさらに15分ほど進んだ先。こちらが谷川岳の最高地点だ。2つのピークは釣り尾根で繋がっており、新潟県側がなだらかな斜面なのに対し、群馬県側は切れ落ちている。両県の気候の違いによってこうした非対称な山容ができあがったのだという。「オキノ耳」も展望がよく、しばらく山並みを眺めていたくなる。休憩しながらひとしきり景色を満喫したら、来た道を戻ってロープウェイで下山だ。

「トマノ耳」から見た「オキノ耳」。右側の群馬県側は岩肌が露出した急峻な斜面になっている
「オキノ耳」も360度で景色が広がるロケーションのよいところ