普段登山に馴染みがない人でも、「天城」の地名は耳にしたことがあるはず。石川さゆりが歌う『天城越え』や、川端康成の『伊豆の踊子』などで知られ、その名がついた「天城山(あまぎさん)」は、日本百名山にも選ばれている。

 紅葉で山が「燃える」季節にはまだ早いが、迫力ある富士山を眺めながら、東京都心から日帰りで行くことができ、初心者でも楽しめる天城山の魅力を紹介しよう。

■歌や小説に描かれた「天城」の山

天城山の登山道から見える相模湾(撮影・穂高カレン)

 天城山は静岡県東部に位置する伊豆半島の最高峰。「天城山」という名前のピークは存在せず、最も標高の高い万三郎岳(ばんざぶろうだけ・標高1,406m)と万二郎岳(ばんじろうだけ・標高1,299m)などの総称を天城山と呼ぶ。

 日本百名山にも数えられ、ブナ林や固有種のアマギシャクナゲなど、一年を通して自然の豊かさを感じられる山だ。

 歌や小説でおなじみの「天城越え」は、伊豆半島の内陸部を通る天城峠を越える旅路の難所を指す。周辺には温泉地も多く、文豪たちに愛されてきた土地でもあるのだ。

 天城山への登山コースは、天城高原ゴルフ場から万二郎岳と万三郎岳を通って、シャクナゲの群生地を周回する「シャクナゲコース」が代表的。コースタイムも4時間半、距離にして約8㎞と日帰り登山にぴったりだ。

 より健脚向けには、天城峠から八丁池を通って天城の尾根を踏破する約8時間の「天城縦走路コース」もある。筆者は今回、初めてでも無理なく楽しめるシャクナゲコースを選んでスタートした。

■歩きやすい天城山の周回コース

天城縦走路の登山口。大きな看板がありわかりやすい(撮影・穂高カレン)

 東京駅からJR特急「踊り子」に乗り、約1時間45分で伊東駅へ。バスに乗り換え約1時間で「天城縦走路登山口」バス停に到着した。

 車で行く場合には、天城高原ゴルフコース付近に、無料のハイカー専用駐車場が約100台分設けてある。都心からアクセスしやすく、週末に気軽に日帰りで行ける点も魅力的だ。

 駐車場やバス停のすぐ先に、大きな登山口の看板が立っており、いよいよ登山スタート。この時点ですでに標高は1,045m。樹林帯の歩きやすい道を30分ほど進むと、分岐点の四辻󠄀に出た。ここからが周回コースとなる。

 登山道は整備されており、各所に案内板があってわかりやすい。緑の美しい山道をゆるやかに上っていくと、わずか1時間ほどで最初のピーク「万二郎岳」が見えてきた。

天城山の登山道にある四辻の分岐(撮影・穂高カレン)
岩を越える場所もあるが、整備され難易度は高くない(撮影・穂高カレン)