■マッターホルン山頂の絶景を眺めながら月面のような砂利道を進む

チーメ・ビアンケ・ラーギの駅に到着。真夏にもかかわらず、この上のプラテウ・ローザにあるスキー場までスキーを担いで乗車する人がたくさんいる

 チーメ・ビアンケ・ラーギの駅でロープウェイを降り、準備を整えて早速歩き始める。ここから目的地のテオデュール峠の頂まで、標高差はたったの440m弱。これは楽勝、朝のお散歩程度で絶景が見られると期待したのが間違いだった。スタート地点が既に3,000m付近にあり、そこからひたすら登り続けるため、酸素が少なくなっていくとどうなるかをあまり考慮していなかった。「まぁ、ゆっくり行けばどうにか登れるだろう」という考えが甘かったことは、この後すぐに思い知らされることになる。

ロープウェイ駅前に出ていたトレイル標識。標高差約440mなので気楽に考えていたが、ここからの所要時間が2時間10分と知ってビビり始める
チェルヴィーノ(=マッターホルン)の山頂を見据えながら足を進める。緑が全くない月面のような殺伐とした景色が広がっている 

 スタート時点の歩き出しは快調そのもので、真っ青な空に突き出た巨大なマッターホルン山頂の絶景を目の当たりにしつつ、一本の木も生えていない月面のような砂利道を踏みしめながら進む。陽射しを遮る木陰は一つもなく太陽が照りつけるが、標高3,000m付近という高地とあって空気はひんやり心地いい。

 もう少し標高が低いエリアなら、木々の生い茂る森の緑や植物、野生動物などを観察しながら歩く楽しみもあるが、ここまで来ると目的はただ一つ。山小屋を目指して黙々と歩を進めていくのみ。時折、立ち止まって渓谷の向こうに聳える高い山並みを見渡したり、目の前に現れる雪の塊に足跡を残したりしながら休憩する以外は、殺風景な岩だらけの道をひたすら歩いていく。

緑も動植物も見られず、まるで違う星にいるような錯覚に陥る。どことなくSFチックな景色が広がる登山道
思わず足を踏み入れたくなる巨大な壁のような雪の塊が、道の途中にちらほら見える