■プロシュット・ディ・パルマの全てがわかる博物館
伯爵とその愛人ビアンカの甘々の生活が偲ばれるトッレキアーラ城を後にし、再びバスに乗って次なる目的地『プロシュット・ディ・パルマ博物館』へ向かう。お城の停留所から10分ほど走って、終点ランギラーノ村のバスターミナルに着いた。
金華ハム、ハモン・セラーノと並び、世界三大ハムの一つと称されるプロシュット・ディ・パルマ。「パルマハム」の名で世界中に知られている極上の生ハムは、ほぼ全てがこの小さなランギラーノの村で生産されている。
約70km²の面積に大小200程のプロシュット工場があり、その中心にプロシュット・ディ・パルマ博物館がある。レンガと木材でできた1900年代初頭の市営倉庫の建物を改装した博物館は、奥行き6.5m、高さ5.8m。広々とした空間に、生ハムとランギラーノの歴史、その技法がわかる様々な展示が並んでいる。
まず驚かされたのは、「生ハム」の歴史の古さ。最初の展示でその歴史について詳しく解説されているのだが、なんと紀元前7000年頃には既に豚が家畜として飼われていて、その肉を長期間保存できるように塩漬けにしたのが生ハムの始まりなのだそうだ。さらに、紀元前3500年にはエジプトやバビロニアで生ハムが存在していたこと、紀元前100年の古代ローマ時代には、パルマ近郊のこのエリアで作られる生ハムが「美味なる肉、芳ばしい香り」の極上品であるとして書物にも残されていることなどがわかり、その奥深さに思わず唸った。
まろやかな口当たりと甘く芳ばしい風味が特徴の「プロシュット・ディ・パルマ」だが、製品にその名を付けるのは容易ではない。イタリアでは一般にD.O.P(原産地名称保護制度)の表示がついた食材は高品質の証として知られているが、パルマのプロシュットを名乗るには、ランギラーノ周辺独自の気候、自然環境の中で生産され、かつプロシュット・ディ・パルマ協会が定めた非常に厳しい条件を全て満たしていなければならない。
養豚から塩漬け作業、熟成方法まで、あらゆる工程に定められた厳密なルールを守り、手間隙かけて作られる極上の生ハム。さらに、その生ハムと共に生きてきたランギラーノの人々の人生に触れ、有意義な時間を過ごすことができた。博物館では資料の展示のみだが、プロシュット作りを見学したい人は博物館に申し出れば、見学可能な工場を紹介してくれる。興味があれば、本場のプロシュット製造現場を体験してみるのも楽しい。
■館内の食堂でプロシュット三昧のランチ
博物館でプロシュットのあれやこれやを知ってしまった見学者なら、誰でも「極上のプロシュット・ディ・パルマを今すぐ味わいたい!」という衝動に駆られるだろう。それを見越していたのかどうかは不明だが、見学者にとっては嬉しいことに、館内にある食堂ではプロシュットを始めとしたパルマの様々な特産品を使ったメニューが味わえる。
壁一面に掛けられたプロシュットの芳醇な香りに誘われて食堂へ入ると、早くもお腹が鳴り出した。席についてメニューを熟読し、パルマ近郊の特産品を少しづつ試食できる「プロシュットとサラミ、クラテッロの盛り合わせ」と「プロシュットとパルミジャーノ・レッジャーノ、バルサミコ酢のサラダ」を注文することにした。オーダーすると、シェフがおもむろにプロシュットやサラミの塊を取り出し、鮮やかな手つきで切ってくれる。
運ばれてきた美しい皿を見て、まずは目でじっくりと味わう。この地方独特の「ニョッコ・フリット」と呼ばれる揚げパンと一緒に、博物館お墨付きのプロシュット、サラミ、クラテッロを次々と平らげていく。
ジューシーでほんのり甘く、一度口に入れるともう手が止まらないほど美味しい。これでまた、デブ街道まっしぐらだな、と内心諦めていたのだが、後に「生ハムには良質のオレイン酸が多く含まれ、飽和脂肪酸やコレステロールはあまり含まれていない」と知って少し安心した。
ちなみにビタミンBも非常に豊富で、ヘルシーな食材なのだそうだ。ランチの後、あまりの美味しさに2kg近いプロシュットの塊を衝動買いした私は、もうしばらくの間、この芳醇な味わいを楽しめることに喜びを隠せなかった。