■情熱的なラブストーリーを物語る室内装飾の数々
中央に井戸を抱くポルティコを抜け、室内に足を踏み入れて思わず感嘆した。簡素なレンガ造りの外観とは裏腹に、城内のどの部屋も、壁面から天井まで色鮮やかなフレスコ画で装飾されている。よく見ると、イタリアの中世の城につきものの戦闘シーンや聖書の苦難の一節を表現したようなモチーフは一つもない。どの部屋も軽やかな優しい色調で、風景や動物、鳥、天使や女神といった女性的なモチーフが溢れている。
解説を読むと、この城はデ・ロッシ伯爵が最愛の愛人であったビアンカ・ペッレグリーニとの愛の巣として建てた邸宅であり、要塞としても機能していた他の中世の城とは全く違う目的で建てられたことがわかった。なるほど、城内を眺め歩いていてどこかホッとするような温かな雰囲気が満ちていたのは、まさにこの城を建てた伯爵自身がそれを望んでいたからに違いない。
どの部屋もフレスコ画の保存状態が非常に良く、600年近い歳月が流れているとはとても思えない鮮やかさを保っている。中でも圧巻だったのは『黄金の間』と呼ばれる一室。1462年頃、ピエール・マリア・デ・ロッシとビアンカ・ペッレグリーニの愛の軌跡をモチーフにベネデット・ベンボが描いたと言われる、深いブルーを基調としたフレスコ画の数々は、二人の情熱的でロマンティックな恋愛を物語っている。一人の男性にここまで愛されたビアンカという女性が心底羨ましくなった。