■人の手によって作られた空間とは思えない「間歩」

暗闇のため先が見えない間歩の中(撮影:菅沼とわこ)

 山道を歩き、管理棟に着くと貸与される長靴に履き替え、ヘルメットとライトを装着し、間歩へ歩みを進めていく。間歩の中はひんやりとした空気が漂い、足元にはうっすらと水が溜まっている。

 まさにこの情景が作品そのものであり、陽の光がある外界と異なり張り詰めた空気感だ。岩壁はタガネで掘られており、とても人の手で作られたとは思えない。

福石場を見学するために設置された階段(撮影:菅沼とわこ)
地下深くまで掘られている(撮影:菅沼とわこ)

 奥まで進むと、高さ20m、奥行き30mほどの大規模な採掘場「福石場(ふくいしば)」がある。暗闇で奥が見えないが、ライトアップされるとはるか先まで続く巨大な採掘場が姿を現し、思わず驚きの声が漏れる。

 間歩の中は、銀鉱石の採掘や水抜きのため下方向や上方向にも掘られており、福石場の見学場所付近では、地下深く掘られた坑道も見ることができる。

 採掘時は、サザエに油を入れ、火を灯してランプにした「螺灯(らとう)」の灯りだけが頼りだったとか。そんな中、足元には深い坑道が掘られていたと想像すると危険で、ぞっとする。

はるか先まで続く採掘場(撮影:菅沼とわこ)

■光が全くない「間歩」の暗闇

 作品の中でもさまざまな言葉を用いて表現される、間歩の暗闇。ガイドツアーでは、当時の作業状況を体験するために「螺灯」を模したランプだけを点灯する様子や、灯りを一切なくした間歩の暗闇を体験できる。

 上下左右といった方向感覚だけでなく、目の前にある自分の手のひらでさえ、一切感じ取れない暗闇は、この作品の登場人物たちが働く過酷な環境や心情の表現を理解するうえで最も重要なポイントと言っても過言ではない。

 過酷な環境ながら、生きるため命を削りながら働く男たちと、それを支える家族が暮らした「石見銀山」。自らの肌身で感じた「石見銀山」と、そこを舞台にした作品『しろがねの葉』が掛け合わさり、より鮮明で強烈な印象が残るこの感覚を多くの人に体感してほしい。

●石見銀山世界遺産センター

・住所 島根県大田市大森町 イ1597ー3
・電話 0854-89-0183

・URL https://ginzan.city.oda.lg.jp/
※営業日時、見学料金はホームページよりご確認ください。

●大久保間歩予約センター(株式会社石見観光)

・電話 0854-89-9091

・URL http://www.iwami.or.jp/ginzan/index.html
※営業日時、見学料金はホームページよりご確認ください。

 

※この記事の情報は2023年4月現在のものです。内容が変更される場合もありますので、最新情報はリンク先のHPでご確認ください。