■自然と一体化した中世のエコな城
骨董市を冷やかし歩き、屋台で美味しいパニーノも食べて満足していたところ、一休みしていた広場の一角に「Castello(城)」と矢印がついた表示が目に入った。そういえば、村のはずれから丘の上に大きな四角い建物が見えたが、どうやらあれがヴェールの城らしい。村の中心から徒歩30分弱で行けるようなので、腹ごなしに城を見学しようと歩き始めた。
標識に従って歩くうち、村はずれから本格的なハイキングコースが現れ、鬱蒼とした緑の木々の間に作られた石畳の坂を登ってようやく城の入り口にたどり着いた。
チケット売り場に行くと、「城内の見学はガイド付きで行います。次の回は15分後にスタートしますので、ちょっとお待ちください」と言われた。
先に集まっていた見学者と一緒にツアー開始を待っていると、突如雲行きが怪しくなってきた。さっきまでの青空が嘘のように、真っ黒な雲が空を覆い、雷と共に大粒の雨が降ってきた。城の扉前の小さな雨宿りスペースにみんなが駆け寄り出したその時、「さぁ、スタートしますよ〜!」という掛け声とともにガイドさんが登場。土砂降りの雨を逃れ、一行は城内に入ることができた。
重い鉄の扉を開けて城内に入ると、吹き抜けのホールが現れた。中央の大きな井戸を取り囲むように作られた石の階段を昇って1階のサロンへ入る。足を踏み入れるや否や、サロンの床からむき出しになっている城の土台の岩が目に飛び込んできた。ガイドさんの説明によると、この城は14世紀の建設で、城主であったイブレート・シャランが持てる知識とアイデアの全てを注ぎ込んで設計したのだそうだ。
サロンの床から突き出た岩肌は、この城の堅固さを物語るようにダイナミックで独創的な装飾となっている。ここから始まり、城内に残る寝室やダイニング、厨房、武器庫や金庫室など、どの部屋にも細部に至るまで様々な工夫が凝らされている。
例えば、厨房には気温と地盤の岩の温度を利用した天然の冷蔵庫や、食事を温かいままサービスできるようダイニングと直接通じる窓口が設けられている。寝室やサロンの各部屋に作られた小さな窓は、暖炉で温められた空気を城内に循環させるためのもので、14世紀に既に「セントラル・ヒーティング」の仕組みを住居に取り入れていた。
もともとの地形の利点を最大限活かして建設した城の内部は、空気も水も食材も、何一つ無駄にしない工夫が随所に施されていて、現代の「エコ住宅」にも通じる発想の数々に感心させられた。その一方、木材をふんだんに使用した天井や床、吹きガラスのゴシック様式の窓などの装飾も素晴らしく、機能的かつ美しい城に私はすっかり惚れ込んでしまった。