■日本茶業界全体の活性化を模索する茶商 〜新品種の育成で地元茶の付加価値向上を目指す~

 内野さんに見送られ、バスは山の茶園「山水園」から市の中心部に戻る。1時間の戻り道、うとうとしている間に市内の製茶問屋が集まるエリアに到着した。製茶問屋の仕事は一般にはあまり知られていない。茶生産者は生茶葉を加工して荒茶と呼ばれる段階にする。昨今「シングルオリジン」と洋風に呼ばれているのは、特定の茶生産者による茶葉だ。もちろん、このままでもすばらしい。製茶問屋は、各農家の荒茶を買い上げて、ブレンドや火入れ加工をして製品に仕上げて販売するのが仕事だ。

「マルヒデ岩崎製茶」の暖簾。同店では毎週マルシェも開催している

 私たちが訪ねたのは「マルヒデ岩崎製茶」。広くない店内のテーブルに、茶葉を入れた皿が30以上並べられている。

テーブルに並べられた茶葉。品種はどれも一緒だが色や形が微妙に違う

 あるじの岩崎さんが説明してくれた。目の前に並ぶ茶葉は、岩崎さんがブレンドを手がける「まちこ」という銘柄の日本茶の材料だという。「まちこ」は、桜葉の香りが特徴の清水区の茶葉を地元の名産にしようと、JAしみずと茶農家と清水の専門店と茶問屋のマルヒデ岩崎製茶さんが協力して作り上げたブランドだ。30以上の皿には岩崎さんが契約している各農家の茶葉が入っている。

 同じ品種だが、それぞれ色ツヤ形が違う。岩崎さんが数種類の茶葉にお湯を注いで「それぞれ香りも色も異なるのがわかると思います」と促した。「確かにその通り」。同行者全員がうなずいたところに「一口ずつ試飲してみてください」と。同じ品種だから香りも味も共通だが、野性味が強いもの、香りがほのかなもの、甘みが強いもの、それぞれ個性があるのがわかる。最後に、岩崎さんがブレンドして仕上げた「まちこ」をいただいた全員が「同じ茶葉だというのはわかるが、飲みやすい」「桜葉の香りがすばらしい」「洗練されている」と声を上げた。

それぞれの茶葉の香りを確かめる

  「農家さんが作ってくれた茶葉の個性を見極めてブレンドし、加工し、よりおいしい製品を一定の品質で提供するのが、私たち製茶問屋の仕事です」と岩崎さん。

製茶問屋の仕事について説明する岩崎さん

 かつての製茶問屋は、買い集めた茶葉をまとめて都会に卸すだけで商売が成り立っていた。岩崎さんのように、地元生産者と共に地域のブランド商品を創出しようという取り組みは新しい。かなり若いうちに突然家業を継ぐことになった岩崎さんだから、業界の固定観念に縛られずにチャレンジングなことができたのかもしれない。

■私が見たい行政の本気

 ツアーの最後のバスの車内、行政担当者から今日の感想を求められた。

 「おもしろいところを案内してくれてありがとう。だけど、それぞれのポイント同士が遠すぎる。今回はスポットの紹介だけど、観光客のツアーだとしたら厳しいね。間の道のりで飽きてしまう。日本茶を中心にツアーを組むとしても、ルート上に食事や遊び、見学、体験のできるスポットを配置して楽しませる工夫をしてね。行政にはいろんな業界をまとめる力があるでしょ。それが行政の役目でしょ」

 私は、行政の役割はビジョンを示して市民を巻き込んで動かしていくことだと思っている。

 日本茶業界でいえば、それぞれの生産者、それぞれの製茶問屋、それぞれの茶商がそれぞれに先を見通し、活動することも重要。でも、それを取りまとめ、さらに広い視野で将来的な展望を示すのが行政の役目だと思っている。日本の行政にはそれが足りない。バスの中で伝えたかったのはそういうこと。今回案内してくれた行政担当者が静岡と静岡の日本茶を愛していることが伝わってきたから、もっともっと頑張ってほしいと思ったんだ。伝わっただろうか……。