■大場所に潜むボスキャラ! 勝負の行方はまさかの……

元気に流れに帰っていくイワナに感謝しつつ「俺以外に釣られるなよ」と自分勝手に思ってしまう

 やがて切り立った崖に挟まれ、深みのある“大場所”が待ち受けていた。アベレージサイズのイワナを一匹釣って、もう一段上へ。狭まった両岸の壁で、明るい渓の中にあってそこだけ陰鬱な雰囲気で水煙が舞っている。大物が潜む雰囲気に期待が高まる。落ち込みの泡切れから鼻先が見えたと思うとフライをひったくるように反転した。「大きい!」

 狙い通りの展開、弓なりにしなるロッド! と、グリップがするりと掌から滑り落ちた。決してイワナの引きの強さのせいではなく、直前にへつった(水面スレスレの岩壁をへばりつくようにして進むこと)時のヌメりが手に残っていたせいだった。釣り人生初、ロッドを落とすというまさかの展開だった。下流に流れていくロッドを慌てて取り押さえ、どうにかロッドは手元に戻ったが、ラインを手繰るとすでにテンションは抜けていた……。

 ちょうど集中力も切れていた頃だ。戻る時間もあるので、後ろ髪を引かれる気持ちで退渓した。渓流シーズンも残りわずか。あとどれだけ川へ足を運べるだろうか。