携帯も繋がらない山奥にある管理釣り場「吉ヶ平フィッシングパーク」。自然渓流をそのまま活かした渓流には、丁寧に育てられた大型のイワナとヤマメが放されている。

 前回の放流は7月の上旬で、すでに一ヶ月以上経っている。キャッチ&リリースとはいえ、元気な魚たちは残っているだろうか? 「スレすぎて相手にしてもらえないかも」という不安も抱えつつ、アブの猛攻をかいくぐりながらフライフィッシング! 真夏の渓流釣りを満喫した。

■超山奥のパラダイス! 野趣溢れる管理釣り場

 越後の名峰、守門岳(すもんだけ)より北へ流れる守門川は、下流で五十嵐(いからし)川へと合流、三条市の街を流れ、信濃川と交わって日本海へと注ぐ。管轄する五十嵐川漁業協同組合が熱心に活動をしており、キャッチ&リリース区間・協力区間を設けたりと、釣り場環境保全にも積極的な注目のエリアだ。

谷間を抜けてたどり着く「吉ヶ平」。気持ちよく開けている。写真奥が「吉ヶ平山荘」

 その守門川の上流、山道を奥深く進んだ先の「吉ヶ平」に管理釣り場がある。と言っても人工的に整備された釣り場ではなく、自然渓流を活かした緑豊かな森を流れる渓だ。放流される魚は大型のイワナとヤマメなので、大物渓流魚に憧れる釣り人にとってはまさにパラダイスだ。

 吉ヶ平は炭焼きなどで生計を立てていた集落の跡地。伊豆守源仲綱公の墓などがあり、歴史の名残を感じさせる場所でもある。福島県の南会津と繋がる「八十里越」の新潟県側の要衝でもあった。かつては小学校だった建物が「吉ヶ平山荘」として活用され、釣りやトレッキング、キャンプの拠点となっている。

五十嵐川漁業協同組合:http://www.ikarashigawa.com
吉ヶ平フィッシングパーク:http://www.ikarashigawa.com/fishing_park/

■シビアなコンディション! 嬉しい一本

 狭い山道をぐねぐねと曲がりながら吉ヶ平山荘に到着した。と、同時に車に群がる黒い影たち。そのままUターンして帰りたいくらいの大量のアブに囲まれていた。外に出ないことには釣りができない。意を決してドアを開けた。素早く虫除けを身体に吹き付ける。その間に車中にはアブたちが素早く入り込んでいた。

やや渇水気味の守門川。川床まで透けて見える

 「入ってしまったものは仕方がない」諦めて川の様子を見に行く。増水、濁りの心配をよそに平水以下、やや渇水気味のコンディションで厳しい釣りになりそうだ。何よりも釣り人が他に上がってこないのも気になる。

 嫌な予感がする。

 釣り人の情報収集能力は極めて高い。釣り人がいない理由が、大量のアブのせいならいいのだが……。山荘で受付を済ませたら、まずは最下流部へ移動して釣りを始めた。浮かべたり、沈めたり、流す筋やスピードを変えてあの手この手で探ってみるが、魚の気配をまるで感じない。

 この日は、山と釣りの大先輩と一緒だったのだが、一旦二手に分かれ、それぞれ魚影を探ることにした。まず僕が選んだのは、前後を大場所・好ポイントに挟まれた、見逃しそうな小さな巻き返し。いわゆる“竿抜け”ポイントだ。

力強く走り回るイワナにドキドキ・ハラハラなやりとりだった

 しつこく流し方を変えていると浮上してくる大きな魚影が見えた。すぐに沈んでしまったが、さらに粘っていると再び姿を現し、そのままフライを咥えてゆっくりと反転した!  「この魚が、最初で最後になるかもしれない」そう思い、慎重にやり取りをする。ようやくネットに収まった瞬間は、抑えがたい喜び包まれ小さくガッツポーズ!

 そんな僕を横目に水際でこちらを見ていたカップルが、おもむろに服を脱いで水浴びを始めていた。話しかけられ、賞賛されることを期待していたのに、少しばかり残念。

■連続するヒット! 連発するバラし……

 一本釣れてからは調子は急上昇! けっして簡単に釣れる訳ではないが、あきらかに魚の気配が濃くなった。ほとんどの釣り人が攻めないようなポイントを“重箱の隅をつつく”ように探っていくと、確かな反応がある。

放流されてから時間が経ったイワナ。流れによく馴染んでいる

 俊敏なヤマメにあっという間にハリを外されたり、大きなイワナをようやく寄せてきても油断した瞬間に逃げられたりと、お恥ずかしい“バラし”の連発だったがドキドキ、ワクワク、十分に楽しませてもらった。

 それほど長い区間ではないので、“場を休ませ”がてら昼食を挟み、釣りを再開した。ふと視線を感じて顔を上げると、堰堤工事の人たちが数人上流から僕を見ている。ギャラリーたちの心地よいプレッシャーを感じながら、狙いすましたラインにウェットフライをゆっくりと通すと、ずっしりとした手応えと共に魚がかかった!

 大げさに大物感を演出…… いや、その必要がないほど凄まじいトルク感でプールを走り回るイワナに翻弄される。ようやく寄せてくると、明らかに40cmに届きそうな大物だ。

 と、今度は下流に向かって勢いよく流れ出しに向かっていく。慌ててプレッシャーをかけた瞬間にイワナは反転。テンションを失った。照れ笑いを浮かべながら、チラリと上流の川岸を見上げると、すでに誰もいなかった……。

 いつの間にか昼休みが終わっていたらしい。