梅雨が明け、本格的な登山シーズンがはじまった。綺麗な景色を眺めながら山道を歩き、山ご飯やコーヒーを楽しみ、下山後は温泉に入ってゆっくり疲れを癒す。登山はいろいろな楽しみ方があり、最近は登山客も増加傾向にある。
登山は楽しい反面、十分注意が必要なアウトドアアクティビティだ。登山計画を立てる、登山届けを出す、登山ルートや天候を事前に確認する、ファーストエイドキットを持参するといったことは多くの登山客が実践していると思うが、思わぬアクシデントで登頂断念という判断を下すこともある。
今回は筆者の実体験に基づいた登頂撤退エピソードと、登山計画を立てる際の注意点など、安全に登山を楽しむためのポイントを紹介する。
■曇天での登頂撤退エピソード
筆者はこれまで何度か1泊2日のテント泊登山を経験しており、このときは夫や友人らと行く2泊3日のテント泊登山の計画を立てていた。3連休に予定を合わせ、登山ルートや装備、駐車場や山小屋情報、天気予報を確認して現地に向かった。
天気予報で中日の天候が曇り時々雨というのが気がかりだったが、小雨ならということでレインウェアやゲイターなどの装備をしっかりザックに詰めて登山を決行。
初日は曇り時々晴れと天気の変化はあったものの、特に問題なく歩き進め、この日の目的地である山小屋に到着。テント設営などをすませて一息ついた頃に小雨が降り、各々テントに籠り翌日の登山に備えて早々に休んだ。しかし、雨の音や風でなかなか眠れず、かつ翌日はテントがぐっしょり濡れていたことで撤収と出発準備に手間取り、朝食などをゆっくり食べる時間を確保できなかった。
バタバタと出発の準備をすすめ、中日となる2日目は小雨が降るなか、登頂を目指してテント場を後にした。これまでも小雨での登山の経験があったことから不安はなかったのだが、途中の水滴を含んだ草むらや濡れた岩場、ぬかるみに足を取られて思うように進めず、登り始めて数時間、11時頃にコースタイムよりかなり遅れていたこと、体力の消耗が激しいこと、天候が悪化しそうなことから撤退するか否かの相談をすることに。
この後、山頂まで行くとテント場に戻るのは15時頃になる。だんだんと暗くなり、加えて雨が降る天候の悪い中、また1泊をするか、このままテント場に戻り荷物をまとめて山を降りるかの判断をすることに。コースタイムの遅れも気になり、体力が思った以上に落ちていることから、今回は登頂を諦める決断をし、荷物をまとめて山を下りた。
テント場に戻ってからは雨が強くなる中、テントや荷物をまとめ、水を吸って重くなったザックを背負って下り、夕方近くに駐車場へ戻り温泉へ。下山後、想像以上に体力を消耗していたことを実感した。その後、温泉でゆっくり体を休めてから、反省会を開くことにした。
この登山での反省点と良かった点は以下の通り。
雨が降ると分かっていながら、「小雨だし、せっかく休みが合うから」と自分たちの希望を優先し、登山を決行。雨の中の山行やテント泊は想像以上に体力を消耗するので、天候が悪い場合の泊まりの登山は検討のうえ、可能であれば予定を変更する。
早めに撤退判断をしたおかげで怪我をすることなく下山ができた。また、登頂できなかったことは残念であるが、そのかわり十分温泉を楽しむことができた。
下山後の楽しみを準備しておくと撤退した際の気持ちの落ち込みを抑えられると感じている。登山の後は温泉やご当地グルメ、ドライブスポットなど天候が崩れても楽しめる予定をいくつか立てることにしている。そうすることで、今は登頂を断念する際の心のハードルを下げるよう努めている。
■ハンガーノックで力が入らず登頂を断念
天候に限らず、これまで体力不足を実感して撤退した経験が何回かある。そのなかでハンガーノックが原因で登頂を諦めたケースを紹介しよう。
このときは久しぶりの登山で、山小屋泊の1泊2日の登山を計画していた。久しぶりということもあり、疲労を感じつつもコースタイム通りに足を進め、途中の山小屋でチェックイン。大きな荷物を置いて、山頂に向かう予定をしていた。しかし、山小屋に着いて小休止していたら足に力が入らず、ふらふらして立つのがつらくなった。これは登山者が稀になる「ハンガーノック」という症状。
「ハンガーノック」、「シャリバテ」とも呼ばれるこの現象は、長時間運動している最中に血糖値が正常値以下まで下がること。体のエネルギーが足りなくなるガス欠のような症状で、めまいや突然の疲労感、吐き気や頭痛などの症状が現れる。
このとき気温が高めだったこと、体調が万全でなかったこともあり、持参したパサパサとした食感のクッキー生地の行動食をあまり食べる気にならず、昼食以外にエネルギー補給をほとんどしなかったのだ。
登山の運動量は高く、自分が思っているよりエネルギー消費が激しいことが多い。体調や気温に応じて食べやすい行動食を水分と一緒にこまめに取りながら足を進めないと、ハンガーノックになる恐れがあるので要注意。
さすがに登頂は無理だと判断し、仲間が登頂アタックに行くのを見送り、山小屋で大人しくエネルギー補給をすることに。
この時の反省点は以下の通りだ。
・食べやすい行動食を持参する。
・なるべく給水時に行動食をとる。
・コースタイムにこだわらず、自分のペースで足をすすめる。また、余裕を持った登山計画を立てる。
山小屋グルメと景色を楽しみ、ゆっくり休憩しながら次回以降の登山に思いを馳せたが、登頂できなかったことが心残りとなった。
食べやすいお気に入りの行動食を見つけるために、普段からいろいろなお菓子などを食べる楽しみに目覚めつつ、登山で食べやすい行動食を持参するようになった。登山では空腹を感じる前、喉が渇く前に水分、行動食を摂取するように注意しよう。