暖かい季節となり、いよいよ本格的な登山シーズンが始まる。最近は登山客も増え、綺麗な景色を眺めて山ご飯、山コーヒーを楽しみ、下山した後は温泉に入って疲れを癒すといった色んなスタイルで楽しまれている。一方で、毎年山岳事故が発生しており、十分注意が必要なアウトドアアクティビティとも言える。

 登山届けを出す、登山ルートや天候を事前に確認する、ファーストエイドキットを持参するなどは多くの登山客が実践していると思う。今回は、実際に落石、転落を目撃した場合の注意点について、筆者の体験談を交えて紹介しようと思う。

■登山中に落石、転落を目撃した実体験

 筆者は以前、奥穂高をめざして登山をした際に落石、および転落事故を目撃したことがあるので、その体験談を紹介する。

涸沢カールのテント場。ここから奥穂高山頂へはガレ場が続く(写真:みう)

 筆者らは涸沢カールにあるテント場で前泊し、早朝にガレ場と呼ばれる、岩や石が積み重なった不安定な道を歩いて奥穂高山頂へ向かった。足元は浮石が多く、歩くとガラガラと石が転がり落ちやすい状況だった。

 この日は穂高岳山荘のスタッフが何人もガレ場に巡回に来ており、ピリピリとした雰囲気の中「ラーック!」と叫んでいた。その理由を聞いてみると、前日に転落事故があったため警戒していたそうだ。

 気持ちを引き締め歩いていると、離れた場所で落石があったのか「ラーック!」の声が何重にも響き渡っていた。落石を目で追っていると、登山客の1人の足元に直撃し、転落する瞬間を目撃してしまった。

 こういうガレ場では、足元が不安定なため自分自身で注意しなければいけないのは当然のことながら、落石が足元の石に直撃しバランスを崩して転落してしまう危険性があるのだ。そのため必ず石が落ちているのを確認した場合は「ラーック!」と周囲に危険を知らせる必要がある。

 この「ラク」は落石のラク、また英語のrockに発音が似ているため、このように言うようになったとのこと。

 転落してしまった登山客はしばらく落ちて、止まった際には動かなくなっていた。筆者は離れた場所で見ているだけで呆然とするしかできなかったが、周りの登山客が山荘スタッフに知らせ、スタッフが110番通報をして救助ヘリを要請した。後で知ったことだが、この登山客は亡くなってしまったとのこと。

奥穂高山頂へ続く急な岩場。この手前に穂高岳山荘がある(写真:みう)

 この日、奥穂高から少し縦走して、北穂高岳に行ってから涸沢カールのテント場に戻る予定だった。しかし、転落事故を目撃しショックを受けたため、いつもより疲労を感じ、北穂高岳には行かずにテント場に戻る選択をした。

 奥穂高岳は急な岩場を登っていく必要があり、筆者の夫は気持ちが後退してしまったため、筆者と友人らを穂高岳山荘で待つという選択をし、各々自分なりに危機管理意識を強くした。