日本でもっとも長大な山脈である北海道の「日高山脈」。その長さは直線で約150km。南北に延びた山脈なので、北日高、中日高、南日高と分けられる。それぞれ、比較的雪の多い北日高。急峻な名峰が連なる中日高。雪が少なく峻険な稜線が続く南日高という特徴がある。
北日高の一部の山以外、山が峻険すぎて一般的にはスキーには適さない山域だが、あえてスキーを使って南日高の山へ挑んでみた。
■スタートは楽古岳!
スタートは楽古岳(らっこだけ)。日高山脈の南端は襟裳岬から太平洋に沈んでいくが、南部はあまり雪の積もらない藪山だ。登山道のない山がほとんどだが、日高でも数少ない登山道のある山が楽古岳だ。どこから取り付いて日高の主稜線に上がるかが問題となるが、日高の南端の山としては楽古岳が一般的だ。
登山道がある、といってもそこは日高の山。長い林道の先にある登山口からは沢の徒渉を繰り返し、急峻な尾根を登らなければならない。荷物は軽くしたいが、日高の山に登るのに省くことができる装備は少ない。エスケープも困難なので、食料や燃料の予備は欠かせない。結局、パッキングはスキー以外で20kgの重量になってしまった。
■スタート直後にブーツの中まで水浸し……
出発は深夜。最初の楽古岳に登るまでは手間取ることが予想されたので、早めに出発した。一応晴れの予報だったけれど、スタート時の天気は濃霧、小雨……。この時点で山行を中止にしておくのが正しい判断だったと思われる、修行の一日の始まりだった。
水の少ない時期であれば、飛び石を使って靴をぬらさずに渡ることができるメナシュンベツ川。しかし、前日までの高温で雪解けは一気に進んだようでかなり増水気味だった。案の定、徒渉の失敗でずぶ濡れとなってしまった。
最悪なことに、後半の徒渉ではスキーブーツを履いていたのでブーツの中まで水浸しになってしまった。
両足水につかったインナーブーツは、残念ながらその後乾くことはなかった……。
標高700m付近から雨は雪に変わったが、やがて青空の下に楽古岳の頂上も見えてきた。予報通りの天候回復を信じたが、晴れはしなかった。上空は快晴の青空だったが、山の天気はそんなものだ。楽古岳から先の主稜線は見事に低い雲に覆われて様子をうかがい知ることができない。
この時点で積雪が少ないのは気になっていたが、白い雪山と雪稜を信じて先に進むことにした。