■途切れる雪と致命的ミス!

おおむね、尾根はこんな感じ。雪があれば……

 スキーの利点は下りの速さと、雪のついた斜面のトラバースだ。リスクはあるが、長いルートをスピーディーに進むことができる。楽古岳からもそのつもりで滑り始めた。

 しかし、ホワイトアウトの中で100mも進まぬうちに雪が途切れた。その先の尾根、斜面には雪が繋がっていなかった。視界が効かないので先の斜面に雪があることを信じていくら進んでも、すぐに途切れてしまう。そんなことを繰り返しているうちに次の致命的なミスを犯してしまった。

 それはスキーを片方谷底に流してしまうという、やってはいけないミス。慌てて飛びついたら自分も落ちてしまうので、音もなく谷底に消えていくスキーを見送った。

 諦めて引き返す判断をするタイミングだったが、一応スキーの回収に谷を下った。半ば回収は諦めていたが、奇跡的にスキーは途中で止まっていた。失敗の後の幸運で妙にテンションが上がってしまう。回収に要したタイムロスは1時間ほど。まだ行ける。

■薮を漕ぎ、獣道の先で見た景色は……

(雪があって)使えるところはスキーで進むが、脱ぎ履きの繰り返しはけっこう疲れる

 その後、十勝岳を越えオムシャヌプリの手前まで進んだところで濡れたブーツも凍ってきた。一旦テントを設営して大休憩。1時間ほどではブーツは乾かないが、気持ちをリセットするには十分だ。

 徐々に雲が途切れ始め視界が良くなってきたが、相変わらずスキーがロクに使えない斜面ばかりが続く。
雪のない稜線の藪漕ぎ、途切れ途切れの獣道(けものみち)をつないで先へ進み、やっと予報通りの天候回復となったのは15時過ぎだった。

 野塚岳の山頂まで行けば主稜線が見渡せるので、その先の展望が開ける。疲れてはいたけれど、意気揚々と山頂に立って視界に入ってきた景色は……、絶望的に雪の途切れた先の山々だった。その山を越えて行けなくはないけれど、スキーを持って行く意味が感じられない。ここまでも十分意味はなかったけれど……。

■無念のエスケープ…… また来年!

エスケープルートの斜面に誘われるがままに下降

 トヨニ岳に向って少し進んで見るものの、近づくほどに状況の悪さは鮮明になる。無理に突っ込まず、今回はここまでにしておこう。東側の沢を下れば、容易に野塚トンネルへとエスケープできる。雪さえあれば下るのは一瞬だ。最後の最後にスキーが役に立った。

 雪はクラスト(表面が凍った雪質。モナカ雪)でイマイチだけど、斜度も程よいツリーランを楽しめたのでよしとしよう。結局、南日高の山々をスキーで滑り抜けることはできなかった。こうして移動距離約30km、18時間に及ぶ、長い1日が終わった。

 日高の山へは毎年スキーを持って入っている。そのたびに、山の厳しさと自分の実力を思い知らされる。
そしてそれ以上に山の素晴らしさも教えてくれる。今回も、たった1日で多くのことを学んだ気がする。日高とは、僕にとってそんな山だ。