枝打ちも間伐もされないトウヒは、きっと密集したまま光を求めて上へ上へと伸びたはず。そして森の地面は暗いので草もあまり生えず、剥き出しの土は雨によってどんどん流出してしまっただろう。まさに日本の人工林といった感じだが、そんな森に暴風雨や、大気汚染、単一樹種の森(モノカルチャー)で起こりやすいキクイムシの大発生など、様々なことが起こった。たくさんのトウヒが倒れたり、立ち枯れてしまっただろう。

 しかし、そうなれば地面に日が当たり、埋まっていた様々な植物の種子にとってチャンス到来だ。アイフェルの森は、そうやって長い年月をかけて少しずつ、もともとの自然の力を取り戻してきた。

 結果、国立公園ができる頃には、この地域の本来の森の姿、つまり針葉樹と落葉樹が入り混じる「混交林」になっていたのだった。

トウヒやベイマツなど、かつて植林された木を伐採し、在来の植物が成長できる環境を作っている

■現在は11,200種以上の生きものが生息する

 本来の森が復活してきたことで、生きものたちも戻ってきた。近年の調査ではヤマネコ、オオヤマネコ、オオカミ、ビーバー、アカシカ、18種類ものコウモリ、ナベコウ(黒いコウノトリ)、猛禽類のハチクマ、湿地に生息するトガリネズミの仲間、様々な昆虫やキノコなど、11,200種以上もの生きものが確認されている。そして、そのうち2,500種以上が絶滅危惧種だ。

谷のぬた場に現れた鹿の群れ

 数奇な運命を辿ってきたアイフェル国立公園だが、どうやらこれでハッピーエンドではなく、さらなる展望を持っているようだ。ドイツの国立公園は国際自然保護連合(IUCN)の基準に基づいているため、その基準に照らし合わせれば、まだ自然のバランスを取り戻す「過程」にあると見なすことができる。

 これから先、100年200年と、森も、生きものも、人も健康でいられる場所であってほしい。

 そのためには、公園面積の少なくとも4分の3が自然に戻ることができるように、2034年までは人が植林をしたり、トウヒを伐採したりと、色々なサポートを続けるようだ。

新たに芽吹いたブナ。この土地はゆっくりと本来の姿を取り戻している