奈良県山辺郡山添村にある神野山(こうのやま、標高618.8m)。山頂からは奈良盆地をはじめ三重県伊賀地域、遠く京都府や滋賀県の南部まで眺望できる。有数の星空スポットとしても有名だ。山全体が「フォレストパーク神野山」として整備されており、バーベキュー場や、羊と触れ合える「めえめえ牧場」などがあり、子どもから大人までアウトドアが楽しめると、関西で人気のハイキングスポットの一つだ。

 そんな山の山腹に、直径2m程度の黒い溶岩のような岩が幅25m、長さ約650mにわたって渓谷を埋めつくしている。それが鍋倉渓(なべくらけい)だ。

■せせらぎの音は聞こえても、流れは見えない不思議な川

上空から見た鍋倉渓。管理者の許可を得てドローンで撮影

 鍋倉渓の左岸には散策道が整備されている。耳を澄ますと、せせらぎの音は聞こえてくるが流れは見えない、幻の渓流なのだ。この不思議な風景を作りだしている岩は、角閃斑(かくせんはん)れい岩と呼ばれる火成岩の一種。周りの地質より丈夫なため風化が進まずに地面から洗い出されてきたのだという。初夏はツツジ、秋は紅葉で賑わう神野山だが、オフシーズンの冬場は訪れる人もまばら。下草が枯れて岩の全貌が現れる今が鍋倉渓の奇景を隅々まで堪能するベストシーズンだろう。