見張り場が置かれていた場所とあって、鐘撞堂山の頂上からは奥武蔵の山々や町並みを一望できる

 アルプスや遠くの名峰に足を運ぶのも楽しいが、遠出や泊りの登山は難しいという場合、近場の低山をめぐるライトハイキングに出かけてみてはどうだろう。例えば都内から日帰りハイクといえば、秩父や奥多摩、丹沢などのエリアをイメージするかもしれない。しかし、今回紹介するのはもっと低山。埼玉県の奥武蔵にある鐘撞堂山(かねつきどうやま)と羅漢山(らかんざん)だ。町から近く、半日もかからず歩けるので、下山後に山麓の寺院をめぐるなど、その土地の風土に触れることもできる。

■まずは山がある寄居について簡単に説明

ハイキングの起点となる寄居駅は、東武東上線や秩父鉄道、JR八高線が通っている

 埼玉県の奥武蔵は、山岳というより小粒な山が並んだ丘陵地帯が広がるエリア。鐘撞堂山や羅漢山もその中の低山で、寄居町の北に位置している。寄居は鉢形城の城下町として栄え、古くから上州や信州への交通の要所でもある地域。鉢形城は戦国時代に築かれたというだけあって、荒川と深沢川に挟まれた断崖絶壁の自然地形を利用した守り重視の構造だった。後に北条氏が北関東支配の拠点とし、甲斐や信濃からの侵攻に備える重要な役割をしていたという。

 豊臣秀吉が北条氏を降した小田原攻めの折には、後北条氏の重要拠点として前田利家や上杉景勝などが城を包囲し、攻防戦が展開されている。ハイキングの話から少し外れてしまったが、この豆知識を頭に入れて山に登ると楽しさが倍増するのだ。

■鐘をついて危険を知らせた鐘撞堂山

山頂の広場に大きめの東屋が置かれ、その向こうに展望台が用意されている

 鐘撞堂山はその名が示す通り、山頂に鐘が置かれている山だ。かつては見張り場としての役割があり、敵などが攻めてきたら鐘を鳴らして山麓に危険を知らせていたという。山への道のりは、まず寄居駅から国道140号方面に向かい、天沼陸橋入口の交差点を北に向かうとため池の大正池に着く。このあたりから民家がまばらになって山道に入り、途中で竹炭工房のある竹林などを通り過ぎ、池から40分ほどで山頂へと登ることができる。山頂には東屋と展望台が整備され、鐘も置かれている。

 展望台からは関東平野や奥武蔵を一望でき、これだけ展望がいいのなら見張り場が置かれるのも納得と感じる。鉢形城があったのは山頂から見て南方面、寄居駅のさらに向こうの荒川の対岸だ。敵襲の折にはここで警鐘を打ち鳴らし、城や山麓に知らせたのだろうか。城が包囲されたときも、遠くから前田軍や上杉軍が近づいてくるのをここで見ていた見張り番がいたのだろうか。なんて歴史のロマンを感じることができる。

■時間があれば円良田湖で休憩も

人の多い山頂を避けて、円良田湖の湖畔で昼食休憩をとるというのも手

 鐘撞堂山から西に向かうと羅漢山に縦走できる。山腹の森を下ると、円良田湖(つぶらたこ)との分岐に出る。ここから羅漢山は10分ほどで着いてしまうので、時間があれば湖まで足を延ばしてみるのもおすすめだ。灌漑用の人造湖なのでとくにビュースポットはないが、湖畔の東屋などでゆっくり休憩できる。谷間に広がる湖は小さな山に囲まれており、春から夏にかけては新緑、秋は紅葉を楽しめる。ヘラブナ釣りも人気で、釣り人が桟橋に等間隔に座り、のんびり竿を垂れる姿も和やかだ。