栂池自然園の「コバイケイソウ」の花が見頃を迎えている。しかも今年は数年に一度という”当たり年”。園内のいたるところで、白い花が夏の日差しに燦然と輝いている。

 花の咲いた状態は、遠目に見るとまるで白色のトウモロコシのよう。”コバイ”は、漢字で「小梅」と書くように、よく見ると梅の花に似た小さな花の集合体だ。花は毎年咲かず、葉だけの状態の方が山歩きをする人には馴染みが深いだろう。光沢のある楕円形の葉は、はっきりとした葉脈があって印象的だ。実は全草に強い毒の成分がある。

 園内に一歩足を踏み入れると、後立山連峰、白馬岳の壮観な眺めを背景にさっそくコバイケイソウの群落が出迎えてくれる。このあたりは花の状態がまさにピークだった(2021年7月18日)。園内を奥に進むと、開花したての群落や蕾(ツボミ)の状態の株がまだまだあったので、これから訪れる人も楽しめるだろう。

 広い園内は高層湿原の中を縫うように木道が整備されており、いくつかあるルートを自分の体力や好みで思い思いに選ぶことができる。季節ごとに数多くの高山植物の花々が目を楽しませてくれる。今はミヤマキンポウゲのきらびやかな黄色い花やヒオウギアヤメの高貴な紫と、コバイケイソウの白い花のコントラストが際立っていた。

 さらにワタスゲの穂も白い妖精のようにやさしく風に揺れており、夏の湿原の雰囲気を盛り上げていた。他にも高原の黄色いユリ、ニッコウキスゲはまさに開花しだしたばかりだった。こちらはこれから楽しめそうだ。

 園内の楽しみは花だけではない。天然のクーラー「風穴」からは、ひんやりとした風がやさしく吹き出しており、夏の日差しでほてった体を癒してくれる。わずかに残った雪や氷柱(ツララ)が真夏の涼を視覚でも感じさせてくれた。流れる小川には、イワナ(日本固有のマス。冷水性で山奥の渓に潜む。天然魚は一般的になかなか見ることができない)がゆらゆらと泳いでおり、湿原ではアキアカネに混ざって希少なカオジロトンボ(顔が白いのが特徴。オスは背中が赤い)も飛び交っていた。

 標高が高いので紫外線も強く、天気のいい日は暑さも堪える。熱中症には気をつけて、つばのある帽子やサングラスなど日差しを防げて動きやすい服装で。水分補給できるような準備をして歩きたい。