■北岳南東斜面に広がる高山植物の世界
肩の小屋は標高3,000mに建ち、南アルプスでも屈指の展望を誇る。朝はテントの入り口を開けて少し見下ろすと、雲海に浮かぶ鳳凰三山と富士山が並ぶ。いつ来ても一級品の景色。夜中に吹く風もまた一級品で、少し寝不足な目を擦りながら歩き出す。
北岳山頂を越え、吊り尾根分岐に下る途中、砂礫に咲く白い花を見つけ、一気に目が覚めた。花びらの先端が少し窪んでいて、ハクサンイチゲとは違う白さをまとっている。キタダケソウだ。
この時期は、チョウノスケソウという違う白い花にも出会える。次々に現れる高山植物に感動しっぱなしだ。ここから、吊り尾根方面に下り、個人的に北岳で一番おすすめな場所、北岳南東面トラバース道へと入る。
僕はこの道を一日中撮り歩いても飽きない。岩にへばりつくイワベンケイや、なんともいえない光沢を放つキタダケヨモギに混じる花々、自然界の美しさが詰まったような場所だ。もちろん、キタダケソウもこのあたりに多く咲く。北岳山荘にテントを張ってから、今一度のんびりと過ごすのが一番。どこを切りとっても、美しいブーケのような高山植物の世界にどっぷりと浸って欲しい。
最終日は、日の出前に中白根山に立つ。ここからは北岳も間ノ岳も眺めが良い。次第に朝焼けに包まれる稜線。足元にはたくさんのハクサンイチゲが、飛ばされないのが不思議なぐらい揺れて咲いている。陽光が温かく照らすと、厳しい表情が緩んでいく気がした。
帰りは梅雨の貴重な青空も広がり、残雪模様の残る白峰三山の稜線がすっきりと眺められた。大満足の2泊3日。下山前には山の1日の始まりと、夏山シーズンの始まりを満喫し、広河原へと下り始めた。