バックカントリーにおいて、軽さは一つの武器になる。と同時にもちろん、軽量化はリスクも伴う。軽量化を突き詰めると、耐久性や強度が下がる。保温性、快適性も犠牲となってしまう。ATブーツにおいては、滑走性能も他のモデルに比べると低くなるだろう。それでもなお軽さを求める理由は、山の中での機動力を高めるためといえる。

■機動力を優先! F1シリーズ

2020-21モデルのF1。左がメンズ、右がレディースモデル

 スカルパの軽量ATブーツのラインナップがF1シリーズだ。このシリーズは歩行性能優先! F1のスペックは重さ1260g(27cm)、歩行モードの可動域は62°で一般的なスカルパのATブーツであるマエストラーレと比べると200g以上軽い。可動域はわずか2°の違いだが、実際には前後への可動がマエストラーレよりスムーズなので、数値以上の動きやすさ、歩きやすさがある。

 ラストワイズ(足幅)は102mmと、スカルパATブーツの中ではもっとも幅が広い。だが、足入れには多少の履きにくさがある。それは足首部分が狭いのと、踵のポケットが深めに設計されているためだが、理由がある。歩行を楽にするためには足首のホールド感が必要だが、バックルなどでシェルを締め付けてしまうと足の動きを妨げる。履いただけで過度な締め付けをしなくても適切なフィット感が得られるのが理想なので、脱ぎ履きの快適さは犠牲にしている構造だ。

 インナーやシェルも薄めに作られているので、保温性も低い。これは、このようなブーツはスキー場でリフトに乗って滑るだけの保温性など考えてはいないからだ。基本的に動き続けているものという前提なので、体は常に温まっている状態。保温性より、むしろ暑くて汗をかいてしまうことのほうがリスクとなる場合もあるのだ。

 履きにくさ、保温性など、デメリットのように聞こえるが、このF1シリーズは初心者向けのブーツではない。バックカントリーに熟練し、技術を身につけ、そのうえで軽さを求めていく人のためのATブーツなので、快適さを求める人には無縁のブーツだろう。日本ではまだ広まりをみせていないが、ヨーロッパを中心にスキーツーリング志向が高まっており、F1の需要は年々大きくなっている。

■驚異的なハイスペック! F1LT

滑走性能も高いF1LT

 F1をさらに軽量化させた、ハイスペックモデルがF1LTだ。重さは990g(27cm)と、一昔前のレース用のブーツなみに軽い。それでいて、防水性や滑走性能は、このクラスのブーツとしては驚異的なクオリティであることは特筆すべき!

 シェルはカーボングリアミドを使用し、見た目以上の剛性を備えているブーツだ。F1以上に保温性は低いが、足の前後への動きはさらにスムーズで可動域はなんと72°もある。滑走性能はメーカー表記としてはF1より劣ることになっているが、実際の滑走感覚ではF1よりもシェルが硬いのでクイックな操作が可能だ。

 求めている人にはたまらないブーツだが、志向の合わない人には無縁のブーツと言えよう。