真の清流を求め、10年以上全国の川を旅して、ようやく辿り着いた桃源郷がある。高知県仁淀川(によどがわ)の支流、山深い渓谷の中をひっそりと流れる安居川(やすいがわ)がその場所だ。

 仁淀川の美しい青色は近年「仁淀ブルー」と呼ばれ、その美しさが注目されているが、安居川はその最源流にあたり、仁淀ブルーの名称が生まれた場所でもある。僕がこの川を旅した頃は、ここで川下りをしたという記録が全くなかった。情報過多な現代では、なかなか味わえなくなった大人の冒険。川を下る距離よりもロマンの深さを追求した、贅沢な川旅の記録を振り返る。

■奇跡の清流「仁淀ブルー」とは

 仁淀ブルーの名付け親は、仁淀川源流域の自然写真を撮り続けている高知在住のネイチャーカメラマン高橋宣之氏。そのあまりにも青く美しい川の写真の数々がNHKの番組で取り上げられ、それ以降「青の神秘」とか「仁淀ブルー」という言葉が定着して全国的にも知られるようになった。その番組の撮影地として“仁淀川の上流部”という形で紹介されていたのが、実はこの安居川のことなのである。

 この川自体、その美しさが発見されたのは割と近年になってからだ。江戸時代は土佐藩の御留山(おとめやま。藩の領地として立ち入りが禁じられていた山)として一般人の立ち入りは禁止されていたが、明治になって安居銅山が栄えたことで、民間企業によってようやく切り開かれた。その時に初めて、この川の美しさに触れた人々が「なんじゃこりゃあ!」と松田優作的に叫び、一気に景勝地として知られるようになった。

 まさに日本最後の秘境の1つといえる場所なのである。