■急がない。頑張らない。が川旅の鉄則だ

 川霧の中で目覚める朝。静かに焚き火を熾し、熱いコーヒーを飲む。野営道具が十分に乾くまでのんびりとし、自分のタイミングで再び川に出る。

 急ぐ必要なんてない。逆にどこまで急がない時間を作れるか、頑張らない時間を作れるかの方が川旅では重要な要素。できるだけ寄り道をし、川が穏やかな区間は漕がずに進むのがいい。

頑張らない。それで初めて見えるものもある

 熊野川は、ひと言でいえば“懐が深い川”である。山も森も全てが一回り大きくて(おおらかで)、まるで母体に包まれているかのような安心感がある。しかもこれほどの大河でありながら、水の透明度は高く、自然の景観としてでも十分世界遺産の価値があると感じる。

おおらかな世界。自分の存在が小さく感じる

 またこの川は川幅が広いこともあって、鮎釣り師との間でトラブルが少ないこともいい。釣り師も“川は船が通るもの”という認識が高く、夏場でも気兼ねなく下れる貴重な川なのだ。

広い川原での昼寝は最高の贅沢だ

 僕が初めて単独で川下りをし、川旅の魅力にハマるきっかけになった場所。今思えば、ここで川旅童貞を卒業したという我が眼力に拍手を送りたい。

 流れも穏やかで優しく、景色は雄大、極上の川原も多く、移動手段もあって距離も短くできる。まさに川旅のファーストステージにもってこいなのである。