ようやく春の兆しが漂い出した3月下旬、長野県の渓流でもかなり遅い解禁日(3月21日)を設定している北信漁協の渓流へ出かけてみた。今シーズンの初ヤマメに出会えるだろうか・・・
■天気予報は見事に外れ、低水温の厳しいコンディションの中での釣りとなった 〈鳥居川中流部〉
前日の予報では、ここ数日間と同様に天候は晴れ。気温は17℃まで上がるということで、期待して鳥居川の中流域へと向かった。しかしながら、当日は朝から明らかに肌寒く日差しも弱かった。それでも今シーズンまだ出会えていないヤマメ、できれば居着きの厳つい魚体を釣りたい。そんな希望を抱きながら、車で林道を走りながらポイントを探っていった。このあたりは「しなの鉄道北しなの線」(※1)が右岸側に通り、左岸側は未舗装の林道となっている。好きなところで入退渓できるために釣り人も多い。水かさは平水よりやや多め、濁りもそこまで酷くはなかったのだが、川べりに下りて水温を計ってみると、水温、気温ともに3.6℃・・・ 絶望的なコンディションだ。
それでも今シーズン初の鳥居川なので、僕はフライで、同行者はベイトタックルのルアーで釣りを開始した。開けた流れは川幅6〜10mくらい。大きめの岩が点在し、程よい高低差で流れの緩急もリズムよく変化に富んでいる。ときおりプールや大きめの落ち込みもあって渓相は申し分ない。フライはニンフ(※2)をメインに、丁寧にじっくりと流すがまったく反応がない。途中、同行者のルアーに短いチェイスがあったそうだが、それっきり。やがて上流で工事を始めたのか、濁りが増してきて足元も見えないくらいになってしまった。希望が持てなくなったので退渓した。
※1 長野県長野市の長野駅と新潟県妙高市の妙高高原駅を結ぶ、「しなの鉄道」の鉄道路線。
※2 フライ(毛バリ)の一種で、水生昆虫の幼虫時代(ニンフ)を模している
■イワナを狙って源流域へ。まさかの魚が掛かった! 〈鳥居川上流部〉
山道を上がる途中から降り出した雨は、雪へと変わっていた。麓から眺めて「雪雲みたいだね」と言っていたのだが、本当に雪が降るとは思っていなかった。水温5.4℃。ちなみに気温は2℃。ワサワサといい勢いで雪が降っている。それでも、山岳エリアの細流に潜むイワナなら、貪欲にフライに出てくれると期待して釣りを開始した。
ラインの動きに違和感があった。半信半疑で合わせてみると鈍い手応えの後、重量感のある引き! 確実に魚が掛かっている! ローリングを繰り返し思うようにコントロールできない。あたふたしながらも無事に慎重にネットイン。イワナにしては動きがおかしいと思っていたら、ヘアーズイヤーニンフ(※3)を口の脇にしっかりと咥えていたのはヤマメだった。しかも大きい!
確かにこの上流でヤマメとイワナが混在するときもあるが、釣れるのは20cmにも満たない個体がほとんどだ。期待していなかった居着きの立派なヤマメ。恨めしげな目で僕を睨む様子がたまらない。惚れ惚れするような美しい魚体に寒さもすっかり忘れて充足感に浸ることができた。その後小さめのイワナを追加して次の川へ移動した。
※3 前述したニンフパターンの一種。
■最後の悪あがき。湯田中の温泉街の隣を流れる夜間瀬川へ 〈夜間瀬川中流部〉
北信漁協の管轄エリアは、千曲川本流を間に挟み、広範囲でかなり変則的なものとなっている。同行者がまだ魚を手にしていないのと、僕自身なるべく多くの流れの状況や魚の入り方を知りたいので、状況の打開を狙って一気に夜間瀬川へ移動した。ここは志賀高原から流れてくる川だが、温泉も流れ込んでいるので水温が少しは高いであろうと予想していた。冷たい北風が吹く、冬に逆戻りしたような天候だったが、水温は7〜8℃。気温は9.4℃と、少しは期待は持てる状況だった。広い河原と魚道付きの堰堤が並ぶ、あまり風情のない流れ。堰堤の深みを重点的に丁寧にフライを流すが反応はない。そうして1時間ほど釣り続け、ふと同行者(ルアーからフライにチェンジしていた)の方に目を向けた瞬間、2番ロッドが弓なりにしなっていた。放流されたばかりとおぼしきヤマメの口からは、ネットインと同時にヘアーズイヤーニンフがこぼれていた。小さなアタリを見逃さなかった粘り勝ちだ。
毎春、初入渓する川ではシーズンの釣果を占うような思いがある。ただし今回は数日間のポカポカ陽気の後の寒気で、圧倒的に厳しい状況だった。尺ヤマメと出会えたラッキーはあったが、全体の釣果としてはかなり厳しい結果となった。三寒四温が終わり、本格的に暖かくなった頃、再び訪れてみたい。